2014 · 05 · 30 (Fri) 14:45 ✎
●『愛を知った侯爵』シェリー・トマス(集英社ベルベット文庫)
レンワース侯爵フェリックスは幼少時の苦い経験から「愛は人を無力にする」と知った。17歳から人生をやり直した彼は“理想の紳士”と言われるが、彼の正体に気づく者はいない。それを見抜いたのは、家族のため裕福な男性と結婚する必要のあるルイーザだった。彼はルイーザに関心を持つが、彼女は侯爵が自分のような貧しい娘と結婚するとは思っていなかった。("The Luckiest Lady In London" by Sherry Thomas, 2013)
レンワース侯爵フェリックスは幼少時の苦い経験から「愛は人を無力にする」と知った。17歳から人生をやり直した彼は“理想の紳士”と言われるが、彼の正体に気づく者はいない。それを見抜いたのは、家族のため裕福な男性と結婚する必要のあるルイーザだった。彼はルイーザに関心を持つが、彼女は侯爵が自分のような貧しい娘と結婚するとは思っていなかった。("The Luckiest Lady In London" by Sherry Thomas, 2013)
今月の新刊の中で、特に評判のいいシェリー・トマス。
ちょっと最初の方を読んだら、やめられなくなって読んでしまいました。他にも読みかけのがあったのに……。
これは──「シェリー・トマスを読んでみたいけど、ちょっとクセがあるみたいだし……」と尻込みしている人に最適な作品だな! 彼女らしさもありながら、非常にオーソドックスなロマンス小説として完成度も高いです。
ここで、シェリー・トマスの「らしさ」って何かしら、と考える。
これの前に読んだ『甘いヴェールの微笑みに』の感想にも書きましたが、彼女の作品にはロマンスと恋愛小説の中間くらいの味わいがあるのです。『もう一度恋がしたくて』『誘惑の晩餐』『灼けつく愛のめざめ』ではどちらかというと恋愛小説の傾向が強く、『甘いヴェールの微笑みに』では徐々にロマンスに近づき、今回の作品ではガッとロマンスへ舵を切った感じ。
ただ、それでも彼女らしい味わいはちゃんと残っている。それが色濃いのは、キャラクターの描き方です。
今回の作品でいえば、腹黒い人間の描き方がリアルなのです。
私、実は腹黒いキャラって大好きなのですが、欧米のロマンス小説で私が満足できるような腹黒さを持つヒーローヒロインっていないんだよね……。それが残念というか不思議だったんだけど、この作品のヒーローはかなりいい。ヒロインに「愛されたい」と望むようになってから、その黒い賢さの裏の面がどんどん自分を裏切っていく後半がすごく面白い。(あとがきに「ロレッタ・チェイスの『悪の華にくちづけを』にインスパイアされた」と書いてあったけど、残念ながらよく憶えていないんだよね、ヒーローの方は(´ω`;)。ヒロインはすごくよく憶えてるんだけど)
それからもっといいのは、ヒロインもまた腹黒いということ。というか、非常に現実的な冷静さを持っている女性だというところ。
欧米のロマンスでいつも「邪魔だな(´-ω-`)」と感じるやっかいな、あるいはしょーもない「プライド」というものが、二人ともない。二人とも「目的のためなら本当に手段を選ばない」人なのです。
ヒロインは病気の妹も含めて大勢の家族を養ってくれる裕福な男性を探している。ヒーローはそれを意図的に邪魔して、自分の愛人にならざるを得ない方向に持っていこうとする、というストーリーなので、ゲームを仕掛けるのはヒーロー。ヒロインはそれにいったん乗らざるを得ないのですが、乗ったからには自分が有利になるようにがんばる。とはいえ、そううまくはいかない。
ここで「しょーもないプライド」が発動すると、
「勝つまでゲームをやらねばっ!(゚Д゚)」
みたいになるのですが、このヒロインはあっさり降りてしまいます。
「別の土俵に移れば、邪魔入らないしね(´・ω・`)」
と。
まあ、これも駆け引きだったとも言えるけど、このままだと現実にそうせざるを得なくなるのは目に見えているので、それをヒーローに言っただけなんだよね。
それで焦ったヒーローが彼女に結婚を申し込むんだけど、お互い信用していない結婚生活はなかなか緊張に満ちていて──というお話。
この信頼感の欠如と次第に変化していく気持ち、そして過去の(適当な)嘘のしっぺ返しが読んでて楽しかった。そこからの巻き返しも、地味故にヒーローの本来の実直さが出ていた。
信頼を愛でごまかそうとするのって、やっぱり嘘っぽいよ。ロマンスは基本ファンタジーだから、どこをリアルに描くかで作品の価値が変わるのさ。
ところで、
「腹黒い人って書いてても面白いと思うんだけど、どうしてみんな書かないのかな」
と読んでて思ってたんだけど、これは単純に「ウケない」のかしらね。欧米女性に。宗教観に関係あるのかも?
シェリー・トマスは確か中国語がネイティブで──英語で小説は書いているけど、欧米生まれではないのかな? そういうアジア的なメンタルもあるかもしれない。宗教的、民族的な無意識のタガがないというか、欧米的なプライドに縛られないというか。
そこが、私の考えるとシェリーの「らしさ」って感じでしょうかね。
本当に「目的のためなら手段を選ばない」というのは、悪い人になっちゃうんだろうか。だから、ヒーローにふさわしくないとか?
「フェア」という言葉もよく出てくるけど、そういう理念も影響あるのかね。日本人のメンタル自体、ちょっと世界基準で変わってるらしいけど(´ω`;)。
(★★★★☆)
ちょっと最初の方を読んだら、やめられなくなって読んでしまいました。他にも読みかけのがあったのに……。
これは──「シェリー・トマスを読んでみたいけど、ちょっとクセがあるみたいだし……」と尻込みしている人に最適な作品だな! 彼女らしさもありながら、非常にオーソドックスなロマンス小説として完成度も高いです。
ここで、シェリー・トマスの「らしさ」って何かしら、と考える。
これの前に読んだ『甘いヴェールの微笑みに』の感想にも書きましたが、彼女の作品にはロマンスと恋愛小説の中間くらいの味わいがあるのです。『もう一度恋がしたくて』『誘惑の晩餐』『灼けつく愛のめざめ』ではどちらかというと恋愛小説の傾向が強く、『甘いヴェールの微笑みに』では徐々にロマンスに近づき、今回の作品ではガッとロマンスへ舵を切った感じ。
ただ、それでも彼女らしい味わいはちゃんと残っている。それが色濃いのは、キャラクターの描き方です。
今回の作品でいえば、腹黒い人間の描き方がリアルなのです。
私、実は腹黒いキャラって大好きなのですが、欧米のロマンス小説で私が満足できるような腹黒さを持つヒーローヒロインっていないんだよね……。それが残念というか不思議だったんだけど、この作品のヒーローはかなりいい。ヒロインに「愛されたい」と望むようになってから、その黒い賢さの裏の面がどんどん自分を裏切っていく後半がすごく面白い。(あとがきに「ロレッタ・チェイスの『悪の華にくちづけを』にインスパイアされた」と書いてあったけど、残念ながらよく憶えていないんだよね、ヒーローの方は(´ω`;)。ヒロインはすごくよく憶えてるんだけど)
それからもっといいのは、ヒロインもまた腹黒いということ。というか、非常に現実的な冷静さを持っている女性だというところ。
欧米のロマンスでいつも「邪魔だな(´-ω-`)」と感じるやっかいな、あるいはしょーもない「プライド」というものが、二人ともない。二人とも「目的のためなら本当に手段を選ばない」人なのです。
ヒロインは病気の妹も含めて大勢の家族を養ってくれる裕福な男性を探している。ヒーローはそれを意図的に邪魔して、自分の愛人にならざるを得ない方向に持っていこうとする、というストーリーなので、ゲームを仕掛けるのはヒーロー。ヒロインはそれにいったん乗らざるを得ないのですが、乗ったからには自分が有利になるようにがんばる。とはいえ、そううまくはいかない。
ここで「しょーもないプライド」が発動すると、
「勝つまでゲームをやらねばっ!(゚Д゚)」
みたいになるのですが、このヒロインはあっさり降りてしまいます。
「別の土俵に移れば、邪魔入らないしね(´・ω・`)」
と。
まあ、これも駆け引きだったとも言えるけど、このままだと現実にそうせざるを得なくなるのは目に見えているので、それをヒーローに言っただけなんだよね。
それで焦ったヒーローが彼女に結婚を申し込むんだけど、お互い信用していない結婚生活はなかなか緊張に満ちていて──というお話。
この信頼感の欠如と次第に変化していく気持ち、そして過去の(適当な)嘘のしっぺ返しが読んでて楽しかった。そこからの巻き返しも、地味故にヒーローの本来の実直さが出ていた。
信頼を愛でごまかそうとするのって、やっぱり嘘っぽいよ。ロマンスは基本ファンタジーだから、どこをリアルに描くかで作品の価値が変わるのさ。
ところで、
「腹黒い人って書いてても面白いと思うんだけど、どうしてみんな書かないのかな」
と読んでて思ってたんだけど、これは単純に「ウケない」のかしらね。欧米女性に。宗教観に関係あるのかも?
シェリー・トマスは確か中国語がネイティブで──英語で小説は書いているけど、欧米生まれではないのかな? そういうアジア的なメンタルもあるかもしれない。宗教的、民族的な無意識のタガがないというか、欧米的なプライドに縛られないというか。
そこが、私の考えるとシェリーの「らしさ」って感じでしょうかね。
本当に「目的のためなら手段を選ばない」というのは、悪い人になっちゃうんだろうか。だから、ヒーローにふさわしくないとか?
「フェア」という言葉もよく出てくるけど、そういう理念も影響あるのかね。日本人のメンタル自体、ちょっと世界基準で変わってるらしいけど(´ω`;)。
(★★★★☆)
最終更新日 : -0001-11-30