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2015 · 01 · 09 (Fri) 09:26

▽『刑事マルティン・ベック ロセアンナ』マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー

▽『刑事マルティン・ベック ロセアンナ』マイ・シューヴァル、ペール・ヴァールー(角川e文庫)
 1964年、夏のストックホルム。運河から若い女性の死体が上がった。船中で殺され、運河に落とされたであろう彼女の身元も、犯人の手がかりもつかめず、担当する刑事マルティン・ベックら捜査陣は疲弊する。だが、思いがけないところから、彼女の身元が判明する。("Roseanna" by Maj Sjowall & Per Wahloo, 1965)
・〈刑事マルティン・ベック〉シリーズ第1作

 あらすじ、難しいね……。
 先日、「プロットだけで小説の面白さは判断できない」という発言をどこかで読んだばかりなのですが(ソース提示できなくて申し訳ない)、この作品はまさにそんな感じです。スウェーデンのストックホルムで若い女性の死体が見つかり、その身元が判明し、気が遠くなるような聞き込みと証拠品の分析、そして容疑者を特定し、逮捕するまでの長い時間を淡々と描いた物語なので。
 警察小説は、真面目で真摯な彼らの仕事をじっくり描けば描くほど地味になると思うのです。実際に作業は地味なことばかりだから。
 この作品は1964年と古い時代を舞台にしているので、電話こそあるけど、メールやFAXすらなく、一番早い連絡方法は「電報」です。携帯電話やスマホや、ネットももちろんないので、スピーディさは多少欠けます。
 二十代くらいの人がこれを読むと、ある意味時代小説というか、当時の風俗小説としても読めるかもしれない。当時の空気はよくわからないかもしれないけど、ちゃんと本を読める人なら、現代でも捜査の基礎は変わらないときっとわかるよね。
 そういう描き方だから、内容にはあまり古さはありません。殺されたロセアンナという若い女性は、アメリカからの旅行客です。仕事を持ち、自立した自由な恋愛観の持ち主。一人旅をしていた時に、殺人犯に遭遇します。観光船に乗っていた世界各国の旅行客にコツコツと事情聴取していく中盤はほんとに地味なんだけど、読み応えがある。
 そして、終盤にやっと現れる犯人。その猟奇的とも言える複雑な歪みが、わずかな描写で鋭く印象づけられています。人間の描き方が普遍的で、今でも通用する──というか、「当時でこれかよ!(´д`;)」とちょっとびっくりした。人間はあまり変わらない。
 読んでいるうちに、松本清張とか読みたくなってきたのよね……。ヤバい、警察小説にも再びハマリそう……。エド・マクベインの87分署シリーズを買い直す根性ないよ(´∀`;)。

 実は再読なのです……。昔の英語版から翻訳されたシリーズをいくつか読んでいるのですが、すっかり忘れてたな……。マルティン・ベックがワーカホリックで、奥さんとうまくいってないというか、「いつ家に帰ってくるの?」みたいな文句ばっか言われている、という印象は憶えていたけど。
 今回は本国スウェーデン語からの翻訳。まずは4作目(そうだったんだ!)でもっとも有名な『笑う警官』が出て、1作目のこの『ロセアンナ』が続いた。これからシリーズを読破しようかな、と思っています。順調に出ますように……。Kindleで出ますように……。『笑う警官』は紙の文庫で買ってしまって、結局読む前に断裁して自炊しちゃったよ……orz
(★★★★)

最終更新日 : 2018-01-10

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