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2016 · 05 · 27 (Fri) 15:12

●『琥珀色の瞳に捧ぐ』ミシェル・アン・ヤング

●『琥珀色の瞳に捧ぐ』ミシェル・アン・ヤング(マグノリアロマンス)
 牧師の娘キャロリンは、幼なじみのフォックスヘイヴン子爵ルーカスから結婚を申し込まれていた。彼が財産を得るための契約結婚だ。彼はどうしても金がほしいらしい。キャロリンは三人の妹たちの将来を考えて、彼からのプロポーズを受け入れる。("No Regrets" by Michele Ann Young, 2007)

 ボンクラで頭悪いヒーローと自己評価低いお人好しのヒロインにイライラさせられるお話でした。
 あらすじと最初の方を読んでみて、「あ、面白そうかな」と思ったのに、途中からこの疑問が頭から離れなくなった。

「お金を必要な理由を隠す必要あった?」

 ヒーローのルーカスは、路上で生活している音楽の才能ある子供たちを引き取って、学校を設立するためにどうしても財産が欲しいのですが、そのためには父からの縁談であるヒロイン・キャロリンと結婚をしなくちゃならない。両親を亡くした彼女は、自分が働くだけでは妹たちを養ってはいけない。
 そういう二人の結婚ならば、最初から契約なんだし、別に悪いことをしているわけでもないし、隠す必要なんて全然ないのに、なんで? と思ったのです。学校として使う屋敷を手に入れるのに結婚によるお金が必要だとしても、建物のあるなしは言えない決定的な理由ではない。最初にプロポーズをしたのは一年前だから、この一年何してたんだよこの男は(´д`;)。
 物語としての面白さにつながるような隠す理由が見つからないとなると、単に「言いたくない」だけなんだな、と。ルーカスは、父親に虐待されていて、人を信用していない。もちろんキャロリンのことも。信頼していないというより、他人を見下している傾向がある。キャロリンだけでなく、いとこのセドリックのことも「信頼している」とは言うんだけど、「あいつがそんなことできるわけないだろ」みたいなナメた感じなわけです。そんなんだから、ナメたいとこに陥れられるんですけどね。
 それは、虐待した父親がそんな態度で息子に接してきたから。「そんな父親のようにはならない」と思いながら、無意識にその態度をなぞってしまうのは、被虐待児には悲しいかなよくあることです。間違いを指摘されるのが怖いから、人にはなかなか相談しなくて、結局間違った方向に驀進してても気づかないのですよね。
 そういう人を「ボンクラで頭悪い」と言ってしまうのは申し訳ないのですけど、結局父親もそういう人だから息子を虐待したのだし、そこを認めない息子本人だって悪い方向にしか進めないわけなのです。断っておくけど、そういう人が悪いわけじゃない。そういう部分は誰にもあるし、それを認めて修正して成長できるのが人間だし、フィクションの「ヒーロー」ならなおさらだろ(゚д゚)! と思うのですよ。
 まあ、この作品もフィクションですから、最終的にはそうなるんですけど、プロットとして被虐待児の心理を利用しているだけに見えてしまって、あまり説得力がなかった。あ、いや、かえってリアルなんですかね? でも、物語としての面白さはどうなるのか?
 たとえば、「みんな自分が悪かった(´;ω;`)」と悟るのはいいんですけど、今度はそればっか言い始めて、何をやるにしても思い切りがない。キャロリンがさらわれても、

「でもー、自分の意志で行ったかもだしぃー(´・ω・`)」

 と言い始めた時は、超イライラした! 今まで態度がデカかったくせに、いざとなると全然役立たない! 彼女が閉じ込められた塔に侵入してもすぐつかまるし、自力で脱出もできない! お前、ほんとにロマンスのヒーローかよ(゚Д゚)ゴルァ!!
 ただ、これでヒロインがヒーローを凌駕する男前であれば、それはそれでとても面白くなるんですけど、彼女はぽっちゃりなところを気にしすぎているコンプレックスの塊で、自己評価低めの女の子。いつも「自分が我慢すればいいや(´・ω・`)」みたいに思っている。そして、「警戒心? 何それおいしいの?」というお人好し。
 最悪な組み合わせ、と言えるかもしれない(´Д`;)。
 そして、お話を進めるために配された脇役たちが、みんなやな奴ばかりでね……。もちろん、キャロリンはそのわかりやすい悪意にまったく気づかない。ルーカスはわかっても後手に回る。全部裏目に出ている感じ。頭や性格のいい人はほとんど印象に残らないので、読んでていやな気分になってくる。
 ラストに虐待してたルーカスの父親が妙に丸くなって出てきたりして、「そんなうまく行くかよ(-ω-;)」みたいな気分にもなりました。うーむ、やはり、リアルっていうことじゃなかったんだな……。
(★☆)

最終更新日 : 2016-05-27

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