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2016 · 10 · 31 (Mon) 16:23

▽『悪魔が来りて笛を吹く』横溝正史

▽『悪魔が来りて笛を吹く』横溝正史(角川e文庫)
 昭和22年、3月5日。椿子爵の失踪が報じられ、4月に自殺体となって発見された。それから5ヶ月後の9月、子爵の娘・美禰子が金田一耕助を訪ねる。「これ以上の屈辱、不名誉に耐えていくことは出来ない」という父の遺書を持って。彼女は言う。「父がある大事件の犯人だと、家の誰かが密告した」と──。
・〈金田一耕助〉シリーズ(金田一耕助ファイル4)

『八つ墓村」までなかなかたどりつかない、と思いながらも、読み始めると面白くて(´Д`*)。
 再読なので誰が犯人かは憶えていたのですが、その犯人の素性というのはまったく憶えていなかった。
 華族(セレブ)の横暴でインモラルで禁忌な過去が暴かれるのですけど、岡山(地方)を舞台にしたものとはまた別の横溝ワールドが広がります。東京を舞台にしているせいか、なんだか華やか。椿家自体は貧乏華族なんですけど、庶民に比べたらねえ。
 華族制度というのは、このお話でいうと、椿子爵が亡くなったあと、昭和22年(1947年)5月3日に廃止されているのですよね。もしかしたら、今の若い人は「日本にも昔貴族がいた」なんてこと知らない人も多いのではないでしょうか。私にとってもまったく縁がない話であるし、結局百年も続かなかった制度(制定は1869年)なので。
 ということで、ヒストリカルロマンスの雰囲気があります。でも、かなりのドロドロ話なのですよね。一人のDQN華族のだらしない下半身が、すべての元凶。ぶっちゃけただの性犯罪者じゃねえか(´ω`;)。そして、華族制度にあぐらをかいた人間と、それに流される人、さらにそれを利用する強欲な者たちが親になった結果、その報いがすべて子供たちへしわ寄せされた物語です。その子供たちの一人による復讐の物語。
 殺されるのが(ほとんど)ひどい奴ばかりなので、読んでいるこっちとしても犯人につい同情してしまいます。けど、あの尼さんはかわいそうだったのではないか……彼女もDQN華族の被害者だったんだし……。けど、犯人にとっては彼女も「ひどい奴」だったのですよね。そこら辺のエクスキューズも見事だな、と思う。
 戦災でボロボロになった屋敷、奇妙な砂占い、庭の防空壕、タイプライター、地方への列車旅の過酷さ、帝銀事件がモデルになった毒殺事件、そして黄金のフルート──戦後混乱期の雰囲気作りや没落していく華族の人たちの生活なども読み応えあります。
 でもこの作品で一番よかったのは、ラストでついに「一種の清浄感」が得られたこと。エピローグがなくて、あっさり終わるからちょっと薄いのですけど、美禰子の決意は、まさに「一族の膿出し完了」という感じです。

「華族でもなくなったし、それにこだわる人もいなくなったんだから、これからはちゃんと働いて生活していくぞー(゚д゚)!」

 という若くたくましい彼女のこれからに幸あれ、と思わずにはいられませんでした。
(★★★★)

最終更新日 : 2016-10-31

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