2016 · 11 · 05 (Sat) 12:47 ✎
▼『嵐の館』ミニオン・G・エバハート(論創社)
カリブ海に浮かぶ小さなビードン島に滞在しているノーニは、島の実力者で大農場主ロイヤル・ビードンとの結婚式を控えていた。そのことについての手紙を書いている最中も、ノーニは得体の知れない不安を拭うことができない。まるでこの家は、聞き耳を立てているようだ──。そこへ隣の農場経営者ハーマイニーの甥ジムがやってくる。彼の姿に心ときめかすノーニ。だが、私は次の水曜日に結婚する──ジムはノーニに言う。「僕は島を出ていくよ」("House Of Storm" by Mognon G. Eberhart, 1949)
カリブ海に浮かぶ小さなビードン島に滞在しているノーニは、島の実力者で大農場主ロイヤル・ビードンとの結婚式を控えていた。そのことについての手紙を書いている最中も、ノーニは得体の知れない不安を拭うことができない。まるでこの家は、聞き耳を立てているようだ──。そこへ隣の農場経営者ハーマイニーの甥ジムがやってくる。彼の姿に心ときめかすノーニ。だが、私は次の水曜日に結婚する──ジムはノーニに言う。「僕は島を出ていくよ」("House Of Storm" by Mognon G. Eberhart, 1949)
裏表紙や巻末の解説によると、
エバハートは、M・R・ラインハートとともに〈HIBK(もしも知ってさえいたら)〉派に属し、ゴシック・ロマンスと伝統的な謎解きミステリを結合した功績は、多くの作家に影響を与えた。
――――――――――
HIBKとは「Had I But Known」の頭文字をとったもの。「あのとき、もしも私が知ってさえいたら悲劇は避けられたのに……」というモノローグに代表される、思わせぶりな書き方を好む作家のことを、評論家のハワード・ヘイクラフトがそう定義づけたと言われている。
私、勉強不足なのでまったく知りませんでした。HIBKの始祖と言われるメアリ・ロバーツ・ラインハートの作品も読んでみようかな。
しかしまあ、「思わせぶり」とはよく言ったもので、そういう雰囲気にあふれている作品でした。ヒロインのノーニは父親を失って一人になったばかり。その父の友人であったロイヤルに船の中でプロポーズされてそれを受け入れ、これから島で穏やかな結婚生活が始まる──と思っていたのに、来て早々、隣の農場の甥っ子ジムに惚れてしまうわ、家の雰囲気にどうにもなじめないわ、でも結婚式の準備はどんどん進んでいくわで、戸惑いMAXな状態です。
そんな中、ジムがおばのハーマイニーとケンカをして「島を出ていく」と言い始める。「これで結婚に迷わなくてすむ」とホッとしていたら、船へ送っていく途中で告られてしまう! 拒否できるはずもなく、「ロイヤルとの結婚を中止して、島を出る」と約束し、いったん二人は別れます。
しかしその夜、ハーマイニーが殺されているのをノーニは発見する。しかも、その傍らにいたのは、島を出ていったはずのジムではないか! どうして彼は戻ってきたの!?
──というお話です。殺された女性は非常に性格の悪い人で、長年の確執や単純な恨みなどを抱く人もたくさんいそうなので、ノーニ以外はみんな怪しい、という……。
読んでて一番に思ったのは、「カリブ海といういかにも陽気なところを舞台にしていても、ゴシックロマンスに変わりはないんだな」というところ。どんなに陽光まぶしく、さわやかな風が吹き、トロピカルフルーツなんて食していても、陰鬱でドロドロした人間関係というのはどこにでもあるわけです。よく考えたら、「島」っていうのがまたゴシックに似合う。しかもこの話は、嵐が近づいている島ですから。『嵐の館』というタイトルには、密室的な意味合いもあります。島全体が密室。嵐のせいで、ロイヤルの家に容疑者全員が集まる、という必然的な展開にもなります。
というロマンスが絡んだミステリというのを聞きつけて、読んでみました。
ロマンス的にはそれほど萌えはなかったです……。それよりも、ミステリを読んだという読後感の方が強かった。
で、最近ずっと思っていたのですけど、私、ミステリをちゃんと読めてないのではないか、という不安というか疑問が、ミステリを読むたびに湧き出てくるな、と。
「小説としての面白さ」というのはわかるんです。たとえば横溝正史なんかは、犯人を知っていてもぐいぐい読ませる力がある(これすごいな(´Д`;))。ミステリとしてどうか、という判断は下せなくても、「面白く読めたから満足」という気持ちが勝つのですよね。
この作品が小説として面白いかどうかはさておき(いや、面白いですよ。ゴシックロマンスとして)、ミステリはミステリとしての楽しみ方を身に着けたい、という欲求が出てきたな、と最近思っているのです。今更!? って感じですけどね(´-ω-`)。
そういうたしなみがあれば、この作品もまた別の楽しみ方ができたんじゃないか、とつい思ってしまう。
たとえば、犯人を予想しながら読んでしまうというのはミステリにはありがちな読み方だとは思うんですが、それが割と当たってしまったりすると、残念に思ってしまったり。論理的な解説はできないけど「なんとなくこの人」、みたいなのは、またなんだかつまらない気がしてねー。
そこをもう一歩進めることで別の楽しみ方があるような気もする。そういう模索をするのも、読書の醍醐味なんだろうけど、道は遠そうな(´ω`;)……。私があまり論理的な人間ではないからなあ。いや、それよりこれからミステリについて勉強するとなると、単純に時間が……足りるのか?
(★★★☆)
エバハートは、M・R・ラインハートとともに〈HIBK(もしも知ってさえいたら)〉派に属し、ゴシック・ロマンスと伝統的な謎解きミステリを結合した功績は、多くの作家に影響を与えた。
――――――――――
HIBKとは「Had I But Known」の頭文字をとったもの。「あのとき、もしも私が知ってさえいたら悲劇は避けられたのに……」というモノローグに代表される、思わせぶりな書き方を好む作家のことを、評論家のハワード・ヘイクラフトがそう定義づけたと言われている。
私、勉強不足なのでまったく知りませんでした。HIBKの始祖と言われるメアリ・ロバーツ・ラインハートの作品も読んでみようかな。
しかしまあ、「思わせぶり」とはよく言ったもので、そういう雰囲気にあふれている作品でした。ヒロインのノーニは父親を失って一人になったばかり。その父の友人であったロイヤルに船の中でプロポーズされてそれを受け入れ、これから島で穏やかな結婚生活が始まる──と思っていたのに、来て早々、隣の農場の甥っ子ジムに惚れてしまうわ、家の雰囲気にどうにもなじめないわ、でも結婚式の準備はどんどん進んでいくわで、戸惑いMAXな状態です。
そんな中、ジムがおばのハーマイニーとケンカをして「島を出ていく」と言い始める。「これで結婚に迷わなくてすむ」とホッとしていたら、船へ送っていく途中で告られてしまう! 拒否できるはずもなく、「ロイヤルとの結婚を中止して、島を出る」と約束し、いったん二人は別れます。
しかしその夜、ハーマイニーが殺されているのをノーニは発見する。しかも、その傍らにいたのは、島を出ていったはずのジムではないか! どうして彼は戻ってきたの!?
──というお話です。殺された女性は非常に性格の悪い人で、長年の確執や単純な恨みなどを抱く人もたくさんいそうなので、ノーニ以外はみんな怪しい、という……。
読んでて一番に思ったのは、「カリブ海といういかにも陽気なところを舞台にしていても、ゴシックロマンスに変わりはないんだな」というところ。どんなに陽光まぶしく、さわやかな風が吹き、トロピカルフルーツなんて食していても、陰鬱でドロドロした人間関係というのはどこにでもあるわけです。よく考えたら、「島」っていうのがまたゴシックに似合う。しかもこの話は、嵐が近づいている島ですから。『嵐の館』というタイトルには、密室的な意味合いもあります。島全体が密室。嵐のせいで、ロイヤルの家に容疑者全員が集まる、という必然的な展開にもなります。
というロマンスが絡んだミステリというのを聞きつけて、読んでみました。
ロマンス的にはそれほど萌えはなかったです……。それよりも、ミステリを読んだという読後感の方が強かった。
で、最近ずっと思っていたのですけど、私、ミステリをちゃんと読めてないのではないか、という不安というか疑問が、ミステリを読むたびに湧き出てくるな、と。
「小説としての面白さ」というのはわかるんです。たとえば横溝正史なんかは、犯人を知っていてもぐいぐい読ませる力がある(これすごいな(´Д`;))。ミステリとしてどうか、という判断は下せなくても、「面白く読めたから満足」という気持ちが勝つのですよね。
この作品が小説として面白いかどうかはさておき(いや、面白いですよ。ゴシックロマンスとして)、ミステリはミステリとしての楽しみ方を身に着けたい、という欲求が出てきたな、と最近思っているのです。今更!? って感じですけどね(´-ω-`)。
そういうたしなみがあれば、この作品もまた別の楽しみ方ができたんじゃないか、とつい思ってしまう。
たとえば、犯人を予想しながら読んでしまうというのはミステリにはありがちな読み方だとは思うんですが、それが割と当たってしまったりすると、残念に思ってしまったり。論理的な解説はできないけど「なんとなくこの人」、みたいなのは、またなんだかつまらない気がしてねー。
そこをもう一歩進めることで別の楽しみ方があるような気もする。そういう模索をするのも、読書の醍醐味なんだろうけど、道は遠そうな(´ω`;)……。私があまり論理的な人間ではないからなあ。いや、それよりこれからミステリについて勉強するとなると、単純に時間が……足りるのか?
(★★★☆)
最終更新日 : 2016-11-05