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2017 · 04 · 04 (Tue) 21:29

●『屋根裏の男爵令嬢』カーラ・ケリー

●『屋根裏の男爵令嬢』カーラ・ケリー(MIRA文庫)
 18歳のグレースは、借金まみれの男爵の父が死んだ時、無一文で屋敷から放り出された。彼女は懇意にしていた村のパン屋に出向き、そこで雇ってくれるように頼む。それから10年──パン屋の常連で、グレースが作るビスケットが好きだった老侯爵が亡くなり、彼の非摘出子であるアメリカ人船長の面倒を見れば、彼女は年30ポンドの報酬が受け取れると遺言に残す。捕虜として捕らえられているダンカン船長に会いに行くと、彼はすでに死にかけていた。("Marriage Of Mercy" by Carla Kelly, 2012)

 ヒロインのグレースは、現実的で自立心にあふれた女性です。視野の狭い貴族の娘ならば、知り合いや親戚に身を寄せてひっそりと(ていうか肩身狭く)生きるしか選択肢にないと思いがちですが、彼女は自ら働くことを望む。それが、自分が今までいた階級から「滑り落ちた」といやというほど思い知ることになったとしても。
 このグレースの心意気に泣かされます。いつかお金を貯めてパン屋を買い取り、自分で商売したいとさえ思う。パンやお菓子を作ることが好きなんだよね。加えてパン職人としての腕も商才もある人なのですが、そのことで彼女を賞賛する者はおらず、一人孤独に淡々と十年を過ごしていた人。
 そこへヒーローでアメリカ人のロブが現れます。あらすじに出てきたダンカン船長はそのまま死んでしまうのです。彼は死に間際、自分のかわりに一人連れていってほしい、とグレースに頼む。その時に選んだのが、ダンカンが船長をしていた私掠船の航海長ロブ・インマン。
 ヒロインが嘘をつく作品であっても、その嘘の理由に説得力があれば気になりません。年30ポンドの報酬は今のグレースにとってとても大切なもの。それに劣悪な環境から一人でも救い出すということも、あの状況で拒否するという選択肢はない。
 連れて帰ったロブと一緒に新侯爵の敷地内のダウアハウス(寡婦用の家)に住み、パン屋の手伝いをさせていくうちに、村人と彼の間に温かい関係ができていく。アメリカ仕込みのドーナッツ作って食べさせたりしてね! おいしいものを作る人は、やっぱり好かれるよねー(´∀ `)。そしてもちろん、グレースの間にも恋が生まれる。十年間何も望まなかった自分の変化に戸惑うグレース。
 ロブはイギリスの最下層の出身で、両親は泥棒をしていた。まだ子供の頃、アメリカの船に乗せられ、そこからのし上がった人。階級を気にするイギリス人とは気質が全然違う。そして、グレースの自立心というか、その奥に秘めたタフさと野心も見抜く。

「アメリカなら、もっと自由に商売できるよ! 君なら絶対に成功するよ!ヽ(゚∀゚)ノ」

 と言ってくれる。夢も希望もないと長年思っていた彼女にとって、この言葉は何よりうれしい。その半面、怖くもなる。何もなければ、何も失わないからね(´・ω・`)。
 後半になると、老侯爵の弁護士セルウェイが行方不明になったり、新侯爵の執事スマザーズとの攻防やら、戦争が終わったのに新侯爵がいちゃもんをつけてきたりとハッピーエンドフラグは折られまくります。これらの収拾がちょっとスマートさに欠けるかな、と思いました。一応伏線はあるものの、ラスト近くに出てくる人に唐突さは否めない。「この人、なんで何もしてくれなかったんだろう」と感じたし、真相を知ると「お前のせいかよ(゚д゚)!」とも思う。スマザーズはいいとして、もう一人の執事の扱いにモヤモヤが残る。しかも、新侯爵には何の意図もなかったというのには「工エエェェ(´д`)ェェエエ工」と思った。単に性格が超悪いだけだったなんて! 何か伏線なのかしら、と期待したのに! カーラ・ケリー、超絶不愉快キャラが結局どうにもならないみたいな展開を普通に書く(´ω`;)。現実的で、そこもまたいいんですけどねー。
 しかし、前半のグレースの孤独感やロブの故郷を恋しく思う気持ち、惹かれ合いながらも遠慮がちな二人の切なさなど、よいところがたくさんあるので、評価はちょっとオマケです。
(★★★★)

最終更新日 : 2017-04-04

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