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2017 · 06 · 20 (Tue) 12:55

△『あなたの人生の物語』テッド・チャン

△『あなたの人生の物語』テッド・チャン(ハヤカワ文庫SF)
 全世界規模で突如として宇宙船が飛来する。言語学者のルイーズは、エイリアンである“ヘプタポッド”の言語を解読しようと試みるが──。(表題作)
 ヒラルムは空に向かってはるかに伸びていくバビロンの塔へやってくる。彼らはそのてっぺんで、空の丸天井に穴を掘るため呼び寄せられたのだ。(「バビロンの塔」)他6篇
("Stories Of Your Life And Others" by Ted Chiang, 2002)

 映画『メッセージ』を見て、原作の『あなたの人生の物語』を読みたくなり買ったテッド・チャンの短編集。全篇読み終わりました。
 実はちょっと「難しい(´・ω・`)」と思ってしまいました。私が普段、いかに簡単なものを読んでいるかと痛感。教養になるような読書ってしてないじゃん(゚д゚)、と改めて気づいて、こりゃヤバいと思ってしまった……。
 ただ8篇入ってますから、好みもある。『あなたの人生の物語』は映画を先に見ていたので保留として、好きなのは『七十二文字』『地獄とは神の不在なり』『顔の美醜について──ドキュメンタリー』、この三つはすごく面白かった。
 特に『地獄とは神の不在なり』は面白いと同時に怖くもあった。天使降臨が現実に起こる世界が舞台で、天国も地獄も実在する(たまに見える)。天使が降臨すると奇跡が起こるんだけど、同時に災害のような事象も起こるので、それに巻き込まれた人は死んでしまう。天国に行くか地獄に行くかはまさに神のみぞ知る。
 つい使徒じゃん……」と言ってしまう自分はダメダメです(´ω`;)。
 それはさておき、天使降臨に巻き込まれて天国に召された妻と再会したい男性が主人公の話なんだけど、彼が天国へ行くためには神を愛さなくてはならない。でも妻を殺した神を愛することなんかできず、苦しむしかない。奇跡を与えられた人、奇跡や神を心から信じる人などの話を聞いても救いが見えない。そしてついに、ある方法を実行しよう、と決意する。
 その残酷で宗教学的なラストに、「これは……SF?」と思わなくもないが、いかにもなSFでないものの方が読みやすいと言えば読みやすい。『顔の美醜について──ドキュメンタリー』もそんな感じで、これが一番軽い読み口でした。けど、読後感はどっしりしている。顔の美醜を感じられなくなる処置を施されると、人を容貌で差別しなくなる、という未来の話なんだけど、その処置を選択するかしないか、あるいはすることによるメリットとデメリットは何か──おそらくこれからもずっと人間を悩ませて、結局結論は出ない、というテーマは身近であっても重いです。
『七十二文字』は文字によってオートマトンを動かし使役させる命名師の男性が主人公。スチームパンクっぽくて、楽しい。しかし、ある極秘計画に参加することになって、それが人間の生殖に関わることで──。「前成説」ってよく知らなかったよ……。
 基本的にこの作品集は、いわゆる「天才」を扱ったお話なんだな、と読み終わって思いました。人間とは次元が違う「人」や存在を扱ったもの。『理解』の主人公は、自分を自分で完璧にコントロールできるんだけど、確かにそういう人こそ「天才」なんだろうな──単に頭がいいとかではなく。発想が転換する瞬間が面白い。
 ただ、そういう人間としての「天才」を主人公にしたものに対して、私はちょっと「難しい」と感じてしまった。天才の話は天才にしか書けない、と思うんですけれど、テッド・チャンって天才なんだろうなあ──と単純に思ってしまう私は凡人なのです。
(★★★★)

最終更新日 : 2017-06-20

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