2017 · 06 · 21 (Wed) 16:39 ✎
◆『愛の岐路』エマ・ダーシー(ハーレクイン)
ターニャはレイフと結婚して二年。だが、彼はいまだに心を開いてくれない。子供も望まない。彼が本当に信頼しているのは秘書のニッキーなのだ。彼女は私を憎悪のこもった目で見る。私たちを引き離そうとしているんだわ。もうこんな結婚生活、我慢できない!("Breaking Point" by Emma Darcy, 1992)
ターニャはレイフと結婚して二年。だが、彼はいまだに心を開いてくれない。子供も望まない。彼が本当に信頼しているのは秘書のニッキーなのだ。彼女は私を憎悪のこもった目で見る。私たちを引き離そうとしているんだわ。もうこんな結婚生活、我慢できない!("Breaking Point" by Emma Darcy, 1992)
問題作が続いたので、エマ・ダーシーでもオーソドックスそうなのを読んでみたら、まさにそんな感じの作品でした。
ヒーローのレイフは、ヒロインで妻のターニャを本当に愛しているんだけど、自分の考えた「幸福」の中に彼女を閉じ込める。ふんだんなお金で美しい家や豪華な服やアクセサリーを与え、華やかなセレブ生活を送る。それに次第にターニャが虚しさを感じていても気づかない。子供を欲しがらない理由も、「父のようになりたくない」(子だくさんの貧乏で苦労したので)ということなんだけど、父親はお金はなかったが、妻を心から愛していた人なんだよね。でも、お金を残さなかった父親を彼は恨んでいる。なぜかというと、結局自分が犠牲になって働いてきたから。家族は彼を頼るばかりで、彼をいたわるという発想は持てない。なぜなら「お兄ちゃんはなんでもできるすごい人なんだもん(´∀ `)!」ということを無邪気に信じているからです。
十代後半より、父を恨み、家族に弱みを見せられない年月を過ごした結果、心を閉ざして人の機微にいまいち疎い男になってしまった。愛情をどう示せばいいのかは、父親という素晴らしいお手本がいたというのに、それを拒否してしまった。
ターニャはそういう夫に失望し、家を出てまた働き始める。
この二人の攻防だけだと割とありきたりなのですが、ここに関わってくるレイフの秘書ニッキーの扱いがすごく効果的だった。こういう横恋慕女もありがちな存在ですけど、イマイチな作品だとすごくわかりやすかったりするじゃないですか。そして最終的にあまり制裁も下されなくて欲求不満に終わったり。
実はこの「夫に横恋慕して奪おうとしている」というのは、ターニャの直感でしかないんだよね。ニッキー、不用意なことは何も言わない。慇懃無礼な雰囲気であったり、にらみつけたり、仕事の話をレイフに振ってターニャが会話へ入れないようにしたり、という程度のことしかしないのです。傍から見ると意地悪とは言えない、あるいは勘違いと処理されてしまう路線スレスレのところでジワジワとターニャを追い詰めていく。
「抜け目ない秘書」がいかにもやりそうなことで、しかも証拠がない。ニッキー自体も作中、必要最低限しか出てこない。読者ですら「もしかして、これはターニャの思い込みでは?」と思ってしまうというミスリードがまた物語を盛り上げる。
制裁がどうくだされたのかというのも、レイフの説明の中にしか出てこないんだけど、彼女にとってもっとも最悪なことは、彼をあざむき続けた下劣な嘘がバレて、信頼を失うことだというのがよくわかる展開だったので、充分満足できました。「頭がいい」というキャラにブレがなかったからこそですね。
あとよかったところといえば、家を出てからのターニャがレイフをきっぱり拒否するところだな。流されそうになっても、なんとか寸止めする。肉欲に流されるヒロインって、ほんと先行き見通せない頭悪い子に見えて、情けなくなってくるのよねえ(´・ω・`)。「頭がいい」ってのはね、仕事ができるとかってことだけじゃないんですよ!
夫婦の元サヤものとしてオーソドックスなお話ながら、エマ・ダーシーという匠の技が堪能できる作品でした。
(★★★★)
ヒーローのレイフは、ヒロインで妻のターニャを本当に愛しているんだけど、自分の考えた「幸福」の中に彼女を閉じ込める。ふんだんなお金で美しい家や豪華な服やアクセサリーを与え、華やかなセレブ生活を送る。それに次第にターニャが虚しさを感じていても気づかない。子供を欲しがらない理由も、「父のようになりたくない」(子だくさんの貧乏で苦労したので)ということなんだけど、父親はお金はなかったが、妻を心から愛していた人なんだよね。でも、お金を残さなかった父親を彼は恨んでいる。なぜかというと、結局自分が犠牲になって働いてきたから。家族は彼を頼るばかりで、彼をいたわるという発想は持てない。なぜなら「お兄ちゃんはなんでもできるすごい人なんだもん(´∀ `)!」ということを無邪気に信じているからです。
十代後半より、父を恨み、家族に弱みを見せられない年月を過ごした結果、心を閉ざして人の機微にいまいち疎い男になってしまった。愛情をどう示せばいいのかは、父親という素晴らしいお手本がいたというのに、それを拒否してしまった。
ターニャはそういう夫に失望し、家を出てまた働き始める。
この二人の攻防だけだと割とありきたりなのですが、ここに関わってくるレイフの秘書ニッキーの扱いがすごく効果的だった。こういう横恋慕女もありがちな存在ですけど、イマイチな作品だとすごくわかりやすかったりするじゃないですか。そして最終的にあまり制裁も下されなくて欲求不満に終わったり。
実はこの「夫に横恋慕して奪おうとしている」というのは、ターニャの直感でしかないんだよね。ニッキー、不用意なことは何も言わない。慇懃無礼な雰囲気であったり、にらみつけたり、仕事の話をレイフに振ってターニャが会話へ入れないようにしたり、という程度のことしかしないのです。傍から見ると意地悪とは言えない、あるいは勘違いと処理されてしまう路線スレスレのところでジワジワとターニャを追い詰めていく。
「抜け目ない秘書」がいかにもやりそうなことで、しかも証拠がない。ニッキー自体も作中、必要最低限しか出てこない。読者ですら「もしかして、これはターニャの思い込みでは?」と思ってしまうというミスリードがまた物語を盛り上げる。
制裁がどうくだされたのかというのも、レイフの説明の中にしか出てこないんだけど、彼女にとってもっとも最悪なことは、彼をあざむき続けた下劣な嘘がバレて、信頼を失うことだというのがよくわかる展開だったので、充分満足できました。「頭がいい」というキャラにブレがなかったからこそですね。
あとよかったところといえば、家を出てからのターニャがレイフをきっぱり拒否するところだな。流されそうになっても、なんとか寸止めする。肉欲に流されるヒロインって、ほんと先行き見通せない頭悪い子に見えて、情けなくなってくるのよねえ(´・ω・`)。「頭がいい」ってのはね、仕事ができるとかってことだけじゃないんですよ!
夫婦の元サヤものとしてオーソドックスなお話ながら、エマ・ダーシーという匠の技が堪能できる作品でした。
(★★★★)
最終更新日 : 2020-10-26