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●『スノーグース』ポール・ギャリコ

●『スノーグース』ポール・ギャリコ(新潮文庫)
 イギリス、エセックスの海岸近くにある大沼に、画家のフィリップ・ラヤダーは移り住む。彼はそこで、鳥の保護をしながら一人で暮らしていた。ある日彼の元へ、一人の少女が傷ついたスノーグースを抱えてやってくる(表題作)。他、『小さな奇蹟』『ルドミーラ』収録。("The Snow Goose" by Paul Gallico, 1940)



『スノーグース』は短編で、現在この作品が収録されている文庫本は二冊あります。一つはこの『スノーグース』で(今回私が読んだのは、この文庫の底本になった王国社版の単行本)、もう一つは角川文庫の『七つの人形の恋物語』。『スノーグース』がダブっていますが、どちらも他の収録作品が素晴らしく、二冊買っても絶対に損のない文庫本です。
 そしてもちろん、『スノーグース』自体が傑作なのです。
 今回読み直したのは、9月公開予定の映画『ダンケルク』のためです。『スノーグース』はこのダンケルクの撤退を題材にしたもの。1939年、ドイツ軍に包囲され、逃げ場を失ったイギリス軍兵士ら40万人を、フランス・ダンケルクから脱出させるための作戦です。彼らを浜辺から撤退船へ運ぶため、国からの呼びかけに応えた船を持つ一般のイギリス人船乗りたちが集結する。
『スノーグース』の主人公フィリップは、この事態に自分のヨットを操って駆けつけ、何人もの兵士を助けるのです。
 ただ、それは作品の後半に描かれること。この作品の生命は前半です。
 画家であるフィリップ・ラヤダーは、傴僂で左腕が不自由な人。イギリスの沼地にある打ち捨てられた燈台小屋に一人で住んでいます。とても孤独な人なのですが、世の中に嫌気がさして孤独を選んだわけではない、という描写がほんとに切なくて、これだけでも涙が出る。

 からだが不具ですと、ともすれば人間ぎらいになったりすることもあるものです。ラヤダーはそうではありません。人間を、動物の王国を、あらゆる自然を、とてもとても愛していました。(中略)ラヤダーが人目をさけて引きこもるようになったのは、どこへ行ってもラヤダーのあふれる愛情に応えてくれるものを見出すことができなかったからでした。ラヤダーは、女は苦手でした。だいたい男の人は、知りあってしまえばみんなラヤダーにやさしくしてくれたものです。でも、相手がわざわざそうしようとしていること自体がラヤダーをきずつけ、他人にそんな努力を強いることをさけるようにしむけたのでした。

 彼は湿原で鳥を保護したり、絵を描いたりして暮らしているのですが、そこへ怪我をしたスノーグースを連れてフリス(フリサ)という少女がやってくる。フィリップの外見に最初は恐れたフリスだったけれど、スノーグースの怪我を優しく手当している様子を見て、彼の家へ通うようになる。
 しかし渡り鳥であるスノーグースは夏になると旅立ってしまい、そうなるとフリスもやってこなくなる。フィリップは孤独をより感じてしまうのです。
 だがある日、スノーグースは別の地に渡ることをやめて、フィリップの元に留まるようになる。すでに出会って何年も立っていたフリスはもう子供ではなく、美しい女性に成長していた──。
 このあと、フィリップはダンケルクへと赴く。そして彼と、彼についていくスノーグースへ向かって、見送るフリスは言う。

「まもってやってね、まもってやってね」

 ──ラストはもう、本当にどうしようもなく悲しいのに、胸いっぱいに広がる愛をフリスのように叫びたくなる。
『トマシーナ』の時にも思ったけれど、ギャリコは人間や物事に必ずある二面性を鋭く、極限まで切り取る。この『スノーグース』で描かれる残酷さは、美しさの裏返しでもあり、読んでいる私はそのどちらに涙を流しているのかわからなくなる。
 初めて読んだ高校生の時もものすごく感動しましたけれど、この歳になっても同じように感動しました。たいてい違うものなのに! それだけ根源的な力があるのだと思う。しかもめっちゃ短い! 短いのに物語が濃い。さらに訳者・矢川澄子さんの優しい言葉づかいも素晴らしい。
 読み終わってからキャメルの『スノーグース』を、改めて聞きました。私のイメージとはちと違う、と感じながらも、ずっと聞き続けてきた、この短編にインスパイアされたアルバムです。
 映画『ダンケルク』にはフィリップのように船で駆けつける一般人のエピソードがあるらしいので、見たら泣いてしまいそう……。

『小さな奇蹟』は、若い頃初めて読んだ時に号泣しました。何しろ設定が切ない。切なすぎる。
 家族すべてを戦争で亡くした10歳の少年ペピーノは、ヴィオレッタという親であり兄弟であり、もちろん友人でもあるメスのロバとともに毎日働きながら暮らしている。家族はお互いだけ、という絆で結ばれているのに、ある日ヴィオレッタは病気になってしまう。ペピーノは聖フランシスコ寺院の地下霊廟に彼女を連れていき、聖フランシスコに病気を治してもらえるよう、お願いに行こうと考える。だけど、ロバなんか入れてもらえないのです。それでもペピーノはあきらめない──というお話。
 小さなペピーノが、優しいロバをたった一つの拠り所にして必死に生きる様子が、今読んでも泣けて仕方ない。こういう話は、ほんとに弱い……。子供と動物……卑怯だろ、とつい思ってしまいます。

 そして今回驚いたのは『ルドミーラ』。実は昔読んだ時は、『小さな奇蹟』の号泣インパクトの影に隠れて、まったく印象に残っていなかったのですが、素晴らしい短編じゃないですか! なんで忘れてたの!? バカなの!?(゚Д゚)>あたし
 舞台は1823年のリヒテンシュタイン。ちっぽけで弱々しい牝牛の願いは、搾乳台の栄冠をいただくこと。それはすなわち、一番たくさんよい乳を出したすごい牝牛だと認められること。

 この牝牛が搾乳台の栄冠にそれほどまでにあこがれるわけは、彼女が女性であって、それでいて自分の罪でもないのにせっかくそのためにこの世に生れてきた役を演ずるだけの肉体的条件に恵まれていないという、そのことによってでした。(中略)運悪く自分は至極平凡に生れついてしまったけれど、そんな極めつきの平凡な身でも最後の日にああして至極美しく飾りたてられれば、熱狂的な迎えられるのです。(中略)
 美しくありたい、愛されたいという願いはなんと深刻で鬱陶しいことでしょう。ほめられ、見とれられ、もてはやされ、のぞまれる存在でありたい、という願いは。


 ここら辺の「自己承認欲求」に関する文章が、すごく胸を打つ。牝牛ですから、ことさら「女性」を強調しますけれど、今の時代というか、この年齢で読むとなおさらこの「のぞまれる存在でありたい」という願いは切なく響く。
 その牝牛が聖女ルドミーラのお堂に祈りを捧げたことから、奇蹟が起こるのです。
『小さな奇蹟』も『ルドミーラ』も一見キリスト教色が強いのですが、「奇蹟」を「神のご加護」だけで終わらせず、人間への深い洞察とともに描かれています。それが普遍的な美しさと愛にあふれた物語に昇華させ、長年親しまれる作品になっているのだな、と感じました。

 小学校高学年くらいから読めると思いますので、夏休みの読書感想文に最適。一つ一つが短いので、一番気に入った物語の感想を書けばいいですよ。最初の『スノーグース』だけだってOK(絵本版もあるようです)。ダンケルクの説明で枚数が稼げるし、先生受けもよさそう(うわ、私って汚い大人だわ(´・ω・`))。
(★★★★★)
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theme : ブックレビュー
genre : 小説・文学

tag : ヒストリカル 新潮文庫 ★★★★★

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