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2017 · 09 · 24 (Sun) 16:35

□『この世界の片隅に』

『この世界の片隅に』2016(Blu-ray)
 昭和19年2月、18歳の浦野すずは、呉に住む北條周作の元へ広島から嫁ぐ。絵を描くことが好きで、のんびり屋のすずは、持ち前の明るさで戦時下の生活を乗り切っていく。(監督:片渕須直 声の出演:のん、細谷佳正、小野大輔、潘めぐみ、他)

 あらすじが──これ以上でもこれ以下でもなく……。
 これを今、『ダンケルク』のあとに見るというタイミングが、我ながらすごいと思いました。全然違う映画なんだけど、基本は同じなんじゃないか、というお話。戦争時に誰が何をしていたのか、ということを極限まで切り取って描く、ということです。その場その場で、みんな必死に生きていくしかない。想像力豊かなのんびり屋の女の子ですら、そのままではいられなくなる、という状況が切ない。
 ただ、軍人中心の物語である『ダンケルク』と違って、この作品は庶民の日常生活が中心ですから、どれだけ切羽詰まっても笑いや優しさが残っている。一つ一つ削がれるように失っていくそれらを、なんとか拾い上げようと必死になる人々を描きます。
『ダンケルク』とは違うものなんだけれども、この作品にも常に緊張感があふれている。それは、登場人物たちは知らないけれど、観客たちにはこの戦争の行く末がわかっているから。最初の方はゆるやかだけれど、終戦に近くなってくるにしたがって緊張が高まってくる。そして、広島と呉が舞台ということで、最大な山場は原爆になるわけです。
 とはいえ、残酷な描写はほとんどない。でも、とても悲しいエピソードがいくつか印象的に語られる。それだけでどれだけ悲惨なことだったのか、というのがわかる。
 終戦になったからすべておしまい、なんてこともない。
 戦争というものは、一度始まってしまうとそこから逃げることができず(もちろん逃げられる人もいるでしょうが)、大切なものを失わないままに生きていくのが困難になる状況なのです。得るものなど何もなく、逃げた人にすらおそらく「自分は逃げた」という傷をもたらす。
 それでも、生きていかなければならないし、生きていくのならば泣くよりも笑っている方がいい。大切なものを失っても、それとは別の、新しい大切なものが得られると信じて──。
 そんな映画だったな、と思いました。けど戦争は、結局そんな体験をむりやりさせられるんだよね……。「ぼんやりな女の子のまま、死にたかった」というようなことをすずは言う。ぼんやりなまま生きていけるのは、平和ボケなのかもしれないし、今の日本がだんだん変な方向へ行っているのも平和ボケのせいなのかもしれないけど、「泣きたいけど、生きていくなら笑うしかない」という心境の人を増やすばかりなら、私は平和ボケでもいいと思うのです。

 なんだかいろいろな考えが頭に渦巻いていて、うまくまとめられませんでした。一つ一つのシーンにちゃんと意味があって、つながっていると感じたんだけど、一度見ただけでは、あるいは見た直後では全部が汲み取れない。
 能年玲奈のすずの声はとてもよかった。オープニングの歌『悲しくてやりきれない』のままやりきれないというのが、最後にわかって本当に切なかったわ……。
(★★★★☆)
[Tag] * ★★★★☆

最終更新日 : 2017-09-24

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