2017 · 10 · 31 (Tue) 16:17 ✎
◇『日の名残り』カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)
1956年、夏。ダーリントン・ホールの執事である老齢のスティーブンスは、主人であるファラディの愛車フォードに乗り、一人旅へ出かけた。行きたかった土地を巡っていくうちに思い出すのは、前の主人ダーリントン卿のこと、そして女中頭で現在はミセス・ベンとなっているミス・ケントンのこと、そして何より、ダーリントン・ホールで過ごした忙しい日々のこと──。("The Remains Of The Day" by Kazuo Ishiguro, 1989)
1956年、夏。ダーリントン・ホールの執事である老齢のスティーブンスは、主人であるファラディの愛車フォードに乗り、一人旅へ出かけた。行きたかった土地を巡っていくうちに思い出すのは、前の主人ダーリントン卿のこと、そして女中頭で現在はミセス・ベンとなっているミス・ケントンのこと、そして何より、ダーリントン・ホールで過ごした忙しい日々のこと──。("The Remains Of The Day" by Kazuo Ishiguro, 1989)
面白かったのですが、ちょっと最後の方で妙な方向に……。
いや、これは誰も悪くはない。強いていえばやはり、私の思い込みがいけない。
実は、普通に楽しく読んでいたのですが(忙しかったから、読む速度は遅かったけど(´・ω・`))、終盤に差し掛かったところで、とある書評家の方がこの本を紹介しているのをネットで見かけたのです。そこにあった「ミステリーとしても」の言葉。「信頼できない語り手」ものとしてすすめてらしたのですが、私は「えっ、ミステリーなの(゚Д゚)!」とちょっと盛り上がってしまい、期待を上乗せしてしまったのです。
そしたら、「あれれ(´ω`;)?」とちょっと肩透かしに……。私の当初の印象は、「執事としてのプライドが高すぎる人の悲喜こもごもの物語」というものだったんだけど、そのまま読み終わりたかった……。ミステリーというか、ある意味そうかもしれない、という感じの物語。「信頼できない語り手」の手の内は、すでにわかってしまっていたというかなんというか……。タイミングですよね。すべてはタイミングだよ(´Д`;)。
私の事情はさておき、面白いことは確かです。特にヒストリカルロマンス好きな人におすすめする。だって主人公は執事だもんね。貴族の大きなお屋敷に勤めて、管理を一手に引き受ける大役ですよ。ダーリントン・ホールというお屋敷も主人公と言ってもいい。スティーブンスは、ここで執事をしていることをとても誇りに思っているから。華やかなロマンスの裏で、そういう執事や女中頭たちがどのように屋敷を回していたかに思いを馳せてもいい。
スティーブンスは、旅行しながら昔のことを思い出していく。旅行の目的の一つには、ミス・ケントン(ミセス・ベン)に会うことが含まれている。結婚生活が不幸であるかのような手紙を寄こした彼女に、「また一緒に働こう」と声をかけようと考えている。自分と彼女のかつての信頼関係からして、ほぼ断られないだろう、みたいな雰囲気を醸し出す(´ω`;)。
冒頭ですでに「信頼できない語り手」は馬脚をあらわしているのですが、実はこの「信頼できない語り手」というのはこの作品を読んでいる時に知った言葉です。いや、そういう小説技法は知っていましたけど、「あー、それを指す言葉があるんだ」と思ったのですよね。
私の小説の読み方って、そういう「信頼できないところ」をツッコむ傾向にある(´ω`;)。だから、割と敏感に気づいてしまう。でも、気づいたからって面白さが損なうわけじゃありません。基本的にこういう小説って、気づいたあとのお楽しみが用意されているから。「二度目が面白い」みたいな言い方があるじゃないですか。たいていは一度目で気づいても面白いですよ。
スティーブンスは、自分が完璧な執事人生を歩んできた、と思いたいんだけれども、そういうわけじゃない。いや、真面目に仕事をして、後ろ指を指されるようなこともしていないけれど、自慢できるかというとそれほどでもないし、自慢することも執事の「品格」にはそぐわないと思っているし、後悔していることもある(あまり認めたがらないけど)。
でも、旅行をして、いろいろな人と出会い、昔なじみのミス・ケントンと思い出話をしたりして、次第に自分が今現在どういう心境なのか、というのを正直に認められるようになっていく。
ラスト、まさにタイトルどおりの日の名残り──夕方の時間、偶然知り合った元執事の男性に、本音を吐露するシーンがとてもよいです。
涙を流したりもして、彼の老いがことさらに強調されるシーンではあるけれど、立ち直りがすごく早いところもよかった(´∀ `)。
「ずいぶんと前向きだな(゚Д゚)!」
と最後のツッコミをして、本(Kindleだけど)をそっと閉じるのでありました。
(★★★★)
いや、これは誰も悪くはない。強いていえばやはり、私の思い込みがいけない。
実は、普通に楽しく読んでいたのですが(忙しかったから、読む速度は遅かったけど(´・ω・`))、終盤に差し掛かったところで、とある書評家の方がこの本を紹介しているのをネットで見かけたのです。そこにあった「ミステリーとしても」の言葉。「信頼できない語り手」ものとしてすすめてらしたのですが、私は「えっ、ミステリーなの(゚Д゚)!」とちょっと盛り上がってしまい、期待を上乗せしてしまったのです。
そしたら、「あれれ(´ω`;)?」とちょっと肩透かしに……。私の当初の印象は、「執事としてのプライドが高すぎる人の悲喜こもごもの物語」というものだったんだけど、そのまま読み終わりたかった……。ミステリーというか、ある意味そうかもしれない、という感じの物語。「信頼できない語り手」の手の内は、すでにわかってしまっていたというかなんというか……。タイミングですよね。すべてはタイミングだよ(´Д`;)。
私の事情はさておき、面白いことは確かです。特にヒストリカルロマンス好きな人におすすめする。だって主人公は執事だもんね。貴族の大きなお屋敷に勤めて、管理を一手に引き受ける大役ですよ。ダーリントン・ホールというお屋敷も主人公と言ってもいい。スティーブンスは、ここで執事をしていることをとても誇りに思っているから。華やかなロマンスの裏で、そういう執事や女中頭たちがどのように屋敷を回していたかに思いを馳せてもいい。
スティーブンスは、旅行しながら昔のことを思い出していく。旅行の目的の一つには、ミス・ケントン(ミセス・ベン)に会うことが含まれている。結婚生活が不幸であるかのような手紙を寄こした彼女に、「また一緒に働こう」と声をかけようと考えている。自分と彼女のかつての信頼関係からして、ほぼ断られないだろう、みたいな雰囲気を醸し出す(´ω`;)。
冒頭ですでに「信頼できない語り手」は馬脚をあらわしているのですが、実はこの「信頼できない語り手」というのはこの作品を読んでいる時に知った言葉です。いや、そういう小説技法は知っていましたけど、「あー、それを指す言葉があるんだ」と思ったのですよね。
私の小説の読み方って、そういう「信頼できないところ」をツッコむ傾向にある(´ω`;)。だから、割と敏感に気づいてしまう。でも、気づいたからって面白さが損なうわけじゃありません。基本的にこういう小説って、気づいたあとのお楽しみが用意されているから。「二度目が面白い」みたいな言い方があるじゃないですか。たいていは一度目で気づいても面白いですよ。
スティーブンスは、自分が完璧な執事人生を歩んできた、と思いたいんだけれども、そういうわけじゃない。いや、真面目に仕事をして、後ろ指を指されるようなこともしていないけれど、自慢できるかというとそれほどでもないし、自慢することも執事の「品格」にはそぐわないと思っているし、後悔していることもある(あまり認めたがらないけど)。
でも、旅行をして、いろいろな人と出会い、昔なじみのミス・ケントンと思い出話をしたりして、次第に自分が今現在どういう心境なのか、というのを正直に認められるようになっていく。
ラスト、まさにタイトルどおりの日の名残り──夕方の時間、偶然知り合った元執事の男性に、本音を吐露するシーンがとてもよいです。
涙を流したりもして、彼の老いがことさらに強調されるシーンではあるけれど、立ち直りがすごく早いところもよかった(´∀ `)。
「ずいぶんと前向きだな(゚Д゚)!」
と最後のツッコミをして、本(Kindleだけど)をそっと閉じるのでありました。
(★★★★)
最終更新日 : 2017-10-31