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2018 · 03 · 02 (Fri) 22:03

■『シェイプ・オブ・ウォーター』

『シェイプ・オブ・ウォーター』"The Shape Of Water" 2017(3/1公開)
 1962年アメリカ、ボルチモア。口のきけないイライザは、政府の極秘研究所で清掃員として働いていた。ある日彼女は、運び込まれた謎の水生生物を偶然目撃する。“彼”に惹かれたイライザは、人目を盗んで会いに行き、次第に心を通わせていく。そして、政府が“彼”をどうするか知った時、イライザはある計画を思いつく。(監督:ギレルモ・デル・トロ 出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー、他)

 このブログには「ロマンス映画」というタグがありますけれど、ハッピーエンドではないものも入っているし、ロマンス的要素を満たしてのハッピーエンド──つまり「萌え」要素満載な映画というのもそれほど多くなかったりします。個人の判断ですけどね。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は久々の萌えるロマンス映画でした。美しいハッピーエンドでもあった……。でも実は、最後の一瞬までそれがわからない。その一瞬で、それまでの物語が鮮やかにひっくり返ります。
 この作品の舞台は1962年のボルチモア──つまり、冷戦時代。社会的な不安が増幅し、人々が抑圧され鬱屈している状況は、今と似ている。主人公は川に捨てられていた赤ん坊の頃から口がきけないイライザ。独身で恋人もおらず、年齢ももう若くなく、容姿も目立つところはありません。友だちはアパート(映画館の上にある!)隣人の画家ジャイルズと、同僚で黒人のゼルダ。ジャイルズはゲイでもあり、すでに老境に入っている。ゼルダも結婚はしていますが、家庭がうまくいっているとはいえずイライザにいつも愚痴をこぼしてばかり。三人とも孤独で、空気のように扱われることに慣れている。世間の片隅で、文字通り物言わず慎ましく生きている人たちです。
 そして、南米の奥地で現地の住民から神のように崇められていたという謎の水生生物(肺呼吸もできるらしいので両生生物なのですが、半魚人のような外見なのでこれ以降は便宜上「半魚人」と表記)は、捕らわれてアメリカに連れてこられ、サディスティックな軍人ストリックランドに虐待を受け続ける。このストリックランドがすごいやな奴というか、変態で。登場シーンが強烈なんですよ。途中でイライザが彼に誘われるシーンがあって、彼女が「無理無理無理っ!」て感じで拒否するんですが、私も同感だった……。こいつよりも絶対に半魚人の方がいいよー(´-ω-`)。
 パンフレットで監督のギレルモ・デル・トロは言う。

「1962年という舞台は現在のアメリカの鏡。でも、現在を舞台にしたら、政治討論が始まってしまう。だから『昔むかし…』とおとぎ話にすれば、みんな聴いてくれるというわけなんだ」

 イライザたちの行き場のない孤独も、不当に虐げられる半魚人の嘆きも、そして権力を笠に着ることを「成功」と呼ぶような者もなくなることもない。しかし、恋もまたなくならない。
 半魚人を目撃したイライザは、彼にゆで卵などを差し入れたりして警戒を解き、一緒に音楽を聞いたり、手話を教えたり、ダンスを踊って見せてあげたり──と仲良くなっていく。味気ない毎日に訪れたささやかな変化に、イライザの心は踊る。ところが、ストリックランドが彼を解剖しようとしていることを知り、イライザはジャイルズとゼルダ、そしてなぜか研究する立場であるホフステトラー博士に協力してもらって半魚人を逃がし、自分のアパートに匿う。二人で過ごすうちに次第に愛が育まれていく過程が、美しい映像とともに描かれます。
 二人ともセリフがないし、感情の動きは映像からしか受け取れない。イライザがいつ恋に落ちたかという決定的なきっかけは明確にはないし、研究所から危険を冒して逃がそうとするほど彼に惹かれるのも少し早すぎるように思えました。「あれ、これはちょっともったいないかも」と感じたのですが、それは早合点だった。
 いつまでも二人で暮らしていけるわけがない、とわかっているイライザは、次第に衰弱していく半魚人を海へ帰そうとする。雨が降って桟橋の水位が上がった時に──。そこへようやくイライザの仕業だと気づいたストリックランドの魔の手が伸びる。
 この桟橋でのラストシーンの、本当に最後の最後で、悲劇はハッピーエンドに覆り、それまでの謎が解ける。どうして二人はあんなに早く惹かれ合ったのか、どうしてイライザはしゃべれなかったのか、どうして彼女の首には傷があるのか、そして、どうして彼女は川に捨てられていたのか──。
 謎が解けると同時に、新しい謎を提示して、物語は終わります。異形の者として半魚人だけを見ていた私たちは、イライザの本当の姿を知る。人間の姿であることが「異形」であり、だからこそ生まれた時に捨てられてしまったのか、と。あるいは、足のある人魚だったのかしら、とか。
 この終わったあとの妄想タイムが捗ること捗ること。「出会うべくして出会った二人だった」という物語の新たな謎と空白を埋める時間。今でも続いています。とても楽しい。
 ロマンスとしても、物語としても、その醍醐味を味わい尽くせました。

 とはいえ、評価は「★★★★☆」──本当は「★★★★★」にしたいのですけど、なぜ減点したかというと、猫が……猫がね……猫好きにはちょっとショックなところが……あってですね……そこだけはどうしても……減点せざるを得ませんでした……。
 それでも素晴らしいパラノーマルロマンス映画の傑作です。
 水生生物ロマンスにはもう一つ傑作があるんですけどね──『スプラッシュ』ってのが。やはり、相性がいいのかな。
(★★★★☆)

最終更新日 : 2019-04-18

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