2018 · 12 · 07 (Fri) 15:54 ✎
▽『殺人鬼』横溝正史(角川e文庫)
探偵作家の八代竜介は、ある夜、駅前で美しい女から家に送ってほしいと頼まれる。彼女は誰かにつけられているらしい。黒い帽子、黒い外套、ステッキを持ち義足らしく歩くたびにコトコトと音をたてる男に。(表題作)
・〈金田一耕助〉シリーズ

探偵作家の八代竜介は、ある夜、駅前で美しい女から家に送ってほしいと頼まれる。彼女は誰かにつけられているらしい。黒い帽子、黒い外套、ステッキを持ち義足らしく歩くたびにコトコトと音をたてる男に。(表題作)
・〈金田一耕助〉シリーズ
気がつけば、読みかけの本ばかりになっております(´・ω・`)……。
なんかこう、読み進められない何かがあって、そのたびに別の本を開く……。読書に対する集中力が著しく落ちているので、「これを早く読まなきゃ」みたいなモチベーションがほしいけど、あってもそれがまた長続きしないという悪循環ですね。「読みたい」という気持ちはあるんだけどね。
そんな中これは、「録画したドラマ」を見るため、そして「その録画を消すため」(´ω`;)に読んだのでした。初読ですが、短編集なのですぐに読める。NHKのBSプレミアムでやったドラマでの金田一耕助は池松壮亮。設定としても金田一の若い頃の話なので、似合っておりました(もう誰が金田一演っても許すって気分なのです(´∀ `;))。この本の中から『黒蘭姫』『殺人鬼』『百日紅の下にて』がドラマ化されてます。
表題作の「殺人鬼」は美しい女・加奈子と出会ったことから運命が狂う探偵作家のお話。冒頭に、ある外国雑誌の「五百人に一人のわりあいで、まだ発見されていない殺人犯がわれわれの間にいる」という説が披露され、竜介は最近巷を騒がしている連続殺人鬼があなたの隣にいるかも──という話をして、加奈子を怖がらせる。夫のある身でかけおちをした加奈子と愛人・賀川の周辺を探る義足の男、そしてやがて賀川は殺され──という展開なのですが、ラストは少しリドルストーリーっぽい終わり方で、賀川の妻と八代の思い、それを誰にも言うまいとする金田一の決意に悲しさがにじむ。
「黒蘭姫」は、銀座のデパートに黒く厚いヴェールをかぶって現れる女が店員を殺して逃走する、という事件が起こり、支配人が金田一に捜査を依頼するという話。“黒蘭姫”と呼ばれていた女は、いつも万引きをするんだけど、堂々としていて誰も見咎めない。ただその日は、たまたま呼び止められてしまう。割と犯人はバレバレなんだけど、これもラストに金田一が“黒蘭姫”へ言う言葉が心に染みる。
「百日紅の下にて」は、私は知らなかったのですがAmazonのレビューを読んだら、とても評価の高い短編なのですね。私もこれはとても気に入りました。いろいろな要素が詰まっている短編だけど、何よりも戦友のことづけを携えた復員直後の金田一と、主人公の佐伯が語り合う情景が美しい。蝉しぐれの中、焼け落ちた廃墟に咲く満開の百日紅を見ながら、二人が一人の女性の死にまつわるもう一つの死について語る。こんなに美しいのに、語る内容はかなりえげつない(´ω`;)。佐伯の異常性が浮き彫りになりますが、彼はそれを異常とは思っていない。とはいえ、当時としてはそれはそれほど異常とは言われないものだったのであろう。戦争がなかったら、幸せだったかもしれない。妻の由美も死ななかったであろう。
ラストは、金田一がある場所へ旅立つところで終わります。たった一行なのに、一気に世界が広がる。「もう一人の戦友のためにあそこへ行くんだな」とファンなら思わざるを得ません。
「香水心中」だけは時系列的に『犬神家の一族』とかよりもあとになっていて、10年後くらいの話なのかな? 等々力警部(「黒蘭姫」にも出てくるけど接点なし)も出てきて、おなじみ感が漂う。軽井沢の別荘族の心中事件を金田一が解決します。
横溝正史を今読んでも面白いのは、人間に対する洞察が今も通用するところだと思うのです。この「香水心中」でも、ひいきしている子の内面に気づかない、いや見ようとしない老婦人が出てくる。家族全体にそれぞれキャラが割り当てられ(あるいは無意識に演じ)、偽りの安定を求めようとする。ああー……またリンダ・ハワードの『心閉ざされて』を思い出しちゃったよ(´ω`;)。いや、もう言うまい。しつこいよね……。
ドラマは面白かったです。意外なキャスティングもあって、ちょっとびっくりした。「誰だろう、この人」と思うとたいていお笑い芸人で。知らない人じゃないのにイメージが違っていて、けっこう見直してしまった。短編の映像化は、私のように原作読もうかなって思う人もいるだろうから、またやってほしいなあ。
(★★★★)
なんかこう、読み進められない何かがあって、そのたびに別の本を開く……。読書に対する集中力が著しく落ちているので、「これを早く読まなきゃ」みたいなモチベーションがほしいけど、あってもそれがまた長続きしないという悪循環ですね。「読みたい」という気持ちはあるんだけどね。
そんな中これは、「録画したドラマ」を見るため、そして「その録画を消すため」(´ω`;)に読んだのでした。初読ですが、短編集なのですぐに読める。NHKのBSプレミアムでやったドラマでの金田一耕助は池松壮亮。設定としても金田一の若い頃の話なので、似合っておりました(もう誰が金田一演っても許すって気分なのです(´∀ `;))。この本の中から『黒蘭姫』『殺人鬼』『百日紅の下にて』がドラマ化されてます。
表題作の「殺人鬼」は美しい女・加奈子と出会ったことから運命が狂う探偵作家のお話。冒頭に、ある外国雑誌の「五百人に一人のわりあいで、まだ発見されていない殺人犯がわれわれの間にいる」という説が披露され、竜介は最近巷を騒がしている連続殺人鬼があなたの隣にいるかも──という話をして、加奈子を怖がらせる。夫のある身でかけおちをした加奈子と愛人・賀川の周辺を探る義足の男、そしてやがて賀川は殺され──という展開なのですが、ラストは少しリドルストーリーっぽい終わり方で、賀川の妻と八代の思い、それを誰にも言うまいとする金田一の決意に悲しさがにじむ。
「黒蘭姫」は、銀座のデパートに黒く厚いヴェールをかぶって現れる女が店員を殺して逃走する、という事件が起こり、支配人が金田一に捜査を依頼するという話。“黒蘭姫”と呼ばれていた女は、いつも万引きをするんだけど、堂々としていて誰も見咎めない。ただその日は、たまたま呼び止められてしまう。割と犯人はバレバレなんだけど、これもラストに金田一が“黒蘭姫”へ言う言葉が心に染みる。
「百日紅の下にて」は、私は知らなかったのですがAmazonのレビューを読んだら、とても評価の高い短編なのですね。私もこれはとても気に入りました。いろいろな要素が詰まっている短編だけど、何よりも戦友のことづけを携えた復員直後の金田一と、主人公の佐伯が語り合う情景が美しい。蝉しぐれの中、焼け落ちた廃墟に咲く満開の百日紅を見ながら、二人が一人の女性の死にまつわるもう一つの死について語る。こんなに美しいのに、語る内容はかなりえげつない(´ω`;)。佐伯の異常性が浮き彫りになりますが、彼はそれを異常とは思っていない。とはいえ、当時としてはそれはそれほど異常とは言われないものだったのであろう。戦争がなかったら、幸せだったかもしれない。妻の由美も死ななかったであろう。
ラストは、金田一がある場所へ旅立つところで終わります。たった一行なのに、一気に世界が広がる。「もう一人の戦友のためにあそこへ行くんだな」とファンなら思わざるを得ません。
「香水心中」だけは時系列的に『犬神家の一族』とかよりもあとになっていて、10年後くらいの話なのかな? 等々力警部(「黒蘭姫」にも出てくるけど接点なし)も出てきて、おなじみ感が漂う。軽井沢の別荘族の心中事件を金田一が解決します。
横溝正史を今読んでも面白いのは、人間に対する洞察が今も通用するところだと思うのです。この「香水心中」でも、ひいきしている子の内面に気づかない、いや見ようとしない老婦人が出てくる。家族全体にそれぞれキャラが割り当てられ(あるいは無意識に演じ)、偽りの安定を求めようとする。ああー……またリンダ・ハワードの『心閉ざされて』を思い出しちゃったよ(´ω`;)。いや、もう言うまい。しつこいよね……。
ドラマは面白かったです。意外なキャスティングもあって、ちょっとびっくりした。「誰だろう、この人」と思うとたいていお笑い芸人で。知らない人じゃないのにイメージが違っていて、けっこう見直してしまった。短編の映像化は、私のように原作読もうかなって思う人もいるだろうから、またやってほしいなあ。
(★★★★)
最終更新日 : 2021-03-13