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□『わたしを離さないで』

『わたしを離さないで』"Never Let Me Go" 2010(WOWOW)
 1994年、イギリス。私の名前はキャシー・H。優秀な介護人だ。もう十年近く勤めている。あちこちの施設を回り、介護すべき人たちに会う日々を送りながら、私は幼い頃から少女まで過ごしたヘールシャムでのことを思い出す。その中でも、特に親しかったルースとトミーの思い出を──。(監督:マーク・ロマネク 出演:キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ、サリー・ホーキンス、シャーロット・ランプリング、他)



 原作者カズオ・イシグロがノーベル賞を獲った時にWOWOWで録画したものを、ようやく見ました。
 臓器提供のためのクローン人間として生まれた主人公キャシーと、同じ境遇の友人たちトミーとルースの物語。
 映画は、原作を手堅く、印象的なエピソードをとりこぼすことなくまとめていると感じましたが、なんとなく物足りない。それはなぜかと考えると、やはり主人公たちが少年時代を過ごすヘールシャムのことが割とあっさりと描かれているせいかな、と思いました。原作では約40%(Kindleなので、ページ数じゃない)がヘールシャムでのことです。主人公のキャシーは人生の半分ほどはこの施設で過ごしているし、人格形成の素となっているヘールシャムの思い出は、とても重要なものなんだよね。原作も、結局ここでの出来事が伏線になって後半の物語が動くんだから。かなり膨大な──というか、細かい伏線が散りばめられている。ミステリーみたいにパズルがはまるようなカタルシスはないけれど、何気なく描かれていたことの意味がわかってくるにつれて、悲しくなったり恐ろしくなったりする。
 それが映画にはあまりなく、どちらかというと悲劇的なラブストーリーのようになってしまっているのが惜しい。いや、これはこれで悪くないと思いますし、映像は美しく、壮麗なヘールシャムのたたずまいや、そのあとに住むコテージやアパートなどの古風で素朴なインテリア、イギリスの田舎や海辺の魅力もあふれている。
 ただやっぱり、原作はヘールシャムでの生活でどのように彼らのメンタリティが築かれていったか、というのを読者に明確に示していた──というか、読んでいるこちらも同じように「教育」されていったみたいな感じだったので、その後の残酷な現実に相対する時の気持ちを汲み取ることができたんだけど、映画だとそういう部分に齟齬が生じる。見ている私たちは、他人事というか、傍観者のように見てしまう。
 キャシーの最後の独白、

「私たちが助けた人間と、私たちは、何が違うのか」

 という疑念を持つのは当然なんだけど、原作ではその先のあるものの方が物語の本質であると私は読み取りました。つまり、「助けた方」も「助けられた方」もいつ入れ替わるかわからない、という危惧です。あの独白だけではそこまで思い至らない。これでは、少年時代に引き裂かれ、今もまた「終了」によって別れるしかないキャシーとトミーのやりきれない、そして報われない、非常に個人的な恋物語として終わってしまう。彼らの背後に無数にいる同じような人たちと、それと根本では地続きである今の自分たちへ思いを馳せるような広がりまで至らないところは、だいぶ惜しいな、と感じました。
(★★★)
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    三原 白

    Author:三原 白
    本(主に海外ロマンス小説)の感想と、たまに映画の感想も書きます。ネタバレもありますので、ご注意ください。
    萌え重視であるため、心の狭い感想ばかりです。やや上から目線でもあります。
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