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▼『逃げるアヒル』ポーラ・ゴズリング

▼『逃げるアヒル』ポーラ・ゴズリング(ハヤカワ・ミステリ文庫)
 サンフランシスコでコピーライターとして働いているクレア・ランデルは、ある日の夕方、駐車場で一人の男を見かける。数日後、クレアは街なかで突然銃撃を受ける。捜査に当たったサンフランシスコ市警警部補マイク・マルチェックは、クレアの見かけた男が、ずっと行方を追っている正体不明の殺し屋エジソンであると気づく。("A Running Duck" by Paula Gosling, 1978)



 ロマンチックサスペンス、略してロマサス。
 長い間読んできました。大好きなジャンルです。
 なぜ好きなのか、と考えると、それはこの『逃げるアヒル』を読んだから、としか考えられません。初めて読んだのは、高校生の頃だと思う。もう40年近く前ですが、はっきり言って、この作品を超えるロマサスは──私には、ないのですよね! 最高傑作だと思っています。(ちなみにロマサス映画の最高傑作は何度でも言うが『ボーン・アイデンティティー』
 とはいえ、最近だとカレン・ローズなんかは面白い。でもね……文句を言うつもりはないんですが、彼女のはどちらかというとミステリーで、「サスペンス」という感じではない。あと、丁寧に書かれているのでロマンスとミステリーの融合がとてもうまくいっているのですが、その分長い。リンダ・ハワードリサマリにも面白いのはあるけど、やはりメインはロマンスで、それのよさがサスペンスの弱さを凌駕しているんだよね。
 やはりこの『逃げるアヒル』みたいな、ロマンスとサスペンス両方の塩梅のよさによって緊張感、緊迫感が途切れず、しかもほどよい長さで読み口がとてもシャープな作品はなかなかない。
 まあ、元々ロマサスとして書かれているものではないんだけど(1979年に英国推理作家協会新人賞を受賞。日本での発売は1980年、ハヤカワ・ポケット・ミステリ)。それを考えるとロマサスの最大の障害は、「ロマンスだからハッピーエンド」ってところなのです。これはどうやったって緊張感削ぐよね。「どうせハッピーエンドなんでしょ?」って。だから、やるとなったら本気でハッピーエンドフラグを折りまくらなくてはならない。しかし、いわゆるロマサスでそこまでのはなかなかない。ハッピーエンドかどうかわからないと、それだけで恋愛小説はけっこうなサスペンスになるのですよ。だから、ロマサスとして構成的に完璧なのは、リサ・ヴァルデスの『パッション』じゃなかろうか、と思ったりします。
 長々と前置きを書いてしまいました……。『逃げるアヒル』の話に戻ります。
 古い作品で、構成も文章もシンプルなんですが、今読んでも面白いです。っていうか、好きです。ずっと大好きです。特にヒーローのマルチェックが。彼に萌え続けて40年ということですよ(゚Д゚)!
 昔再読して書いた感想を見直したら、最初に読んだ時はジャン=ルイ・トランティニヤンをあてはめて読んでいたらしい。なるほど。すっかり忘れていたな(´∀ ` ;)。再読時は実はロシア系であるとわかったので「プーチンになっちゃった(´;ω;`)!」と嘆いていましたが、再々読の今回は「サンフランシスコの尊大な刑事といえば『ブリット』のスティーブ・マックィーンだろう!」となりました。同じサンフランシスコでも『ダーティハリー』にはならない。それは、ブリットにきれいな恋人がいることも影響あると思う。ヒロインのクレアがジャクリーン・ビセットに重なる。
 でも彼女は添え物ではないです。殺し屋の顔を目撃したたった一人の証人ということで、マルチェックが護衛に当たることになるんだけど、隠れ家の場所が漏れたことから、警察に内通者がいることに気づく。そこでマルチェックは奇策を思いつく。クレアと婚約したことにして、マスコミに二人は車でアメリカ中を旅行していると流すのです。つまり、おとり捜査なんだけど、もちろんクレアの承知がなければできない。でも、彼女はやるわけです。
 しかし、その後も内通者から居場所がバレ、誰も信じられなくなったマルチェックはクレアと二人だけで逃げ続ける。この逃避行の間に、二人に愛が芽生える。
 互いに最初のうちは「なんかムカつく」みたいな感じでつっかかるような会話をしていたのに(これもロマンスっぽいけど)、次第に対等なパートナーになっていく。マルチェックは元ベトナム戦争の優秀な狙撃兵で、ゆえに殺し屋エジソンのプロファイルもできるんだけど、途中で戦地でかかったマラリアが再発してしまう。そうなるとクレアが支えるしかなくなるわけです。だからマルチェックは逃亡中、彼女に銃の使い方を仕込む。自分が守ってやれない時、あるいはやられてしまった時に自分で身を守れるようにと。
 現代とは違うところももちろんあるんだけど(携帯電話は当然ないし)、それでもあまり古い感じがしないのは、キャラによるのかな、と思う。たとえば、マルチェックには戦争のトラウマがある。それをクレアに語るシーンはないんだけど、マラリアの熱にうなされて悪夢の中でいろいろしゃべって──というシーンがある。いいよね、こういうの。長々こまごまそれにページ割くより、「だいたいわかればいいじゃん」みたいな感じの省略法。展開がスピーディーになります。ヒーローにつらい過去やトラウマなどがあるのは現代のロマンス小説でも定石になっているけど、多分、ヒーローがちゃんとヒロインに打ち明けるシーンを入れないといけないように思うの。ロマンスって、定型みたいなのがどうしてもあって、それがまだるっこしい時もある。
 大物を幾人も暗殺するなど、警察を翻弄する殺し屋エジソンのキャラも、すごく俗っぽい自己顕示欲の塊で、今ならSNSを上手に使うんだろうな、と想像できる。エジソンはマルチェックに対して「お前は俺と同じ殺し屋だ」とプレッシャーをかけるんだけど、マルチェックは「あいつが殺しを学んだのは、軍隊じゃない」と分析するわけです。銃オタクが自己流でここまで来た、みたいな自負や傲慢さ、子供っぽさも感じる。
 今にも通用するようなキャラ設定なんだよね。クレアも、少しクラシックな翻訳もあって言葉遣いとか、見た目とかは理想の女性像みたいな雰囲気で描かれているんだけど、中身は違う。冒頭、完璧な容姿や経歴や優しさの持ち主であるが、自分を型にはめようとする恋人からのプロポーズを断ってる。そして最後は、「うちの亭主に何してくれとんじゃ(゚Д゚)ゴルァ!!」とばかりに飛び出していく。
 ここのシーンが、私大好きなのです。
 昔再読した時、いわゆるHOTシーンやラストの部分など、ちょっとロマンスからの借り物くささも感じたのですが(アクションシーンはものにしていても、そこら辺はまだ苦手なのかな、と)、今回はなぜかそういう違和感はなかった。ラストはロマンスというより、ハリウッドのアクション映画みたいだったなー。

 いろいろレビュー読むと、けっこう「ロマンスなんか(゚⊿゚)イラネ」と言われていて、ちょっと悲しかった……。筆致が女性とは思えないみたいなことも言われているので、そのギャップがあったのかもしれない。
 まあね──私にとっての最高傑作であっても、完璧な作品ではないですよ。完璧ではないけど、私にとってはロマサスの原点にして最高の作品。そう、それはサメ映画の原点にして至高の作品『ジョーズ』のような! ……いや、大げさ言いました。しかしそれくらい、私にとってはまぎれもない真実なのです。
(★★★★★)
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theme : ブックレビュー
genre : 小説・文学

tag : サスペンス/ミステリ ハヤカワ文庫 ★★★★★

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    プロフィール

    三原 白

    Author:三原 白
    本(主に海外ロマンス小説)の感想と、たまに映画の感想も書きます。ネタバレもありますので、ご注意ください。
    萌え重視であるため、心の狭い感想ばかりです。やや上から目線でもあります。
    評価は★★★★★が満点、★★★が標準点クリア。
    ★★★★からがおすすめです。
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