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2019 · 05 · 04 (Sat) 16:02

■『her/世界でひとつの彼女』

『her/世界でひとつの彼女』"her" 2013(Netflix)
 近未来のロサンゼルス。セオドアは代筆で手紙を書くライターをしている。妻のキャサリンとは別居をして一年あまり。孤独な彼は、人工知能型OSのサマンサを手に入れ、自分に寄り添ってくれる彼女との交流に安らぎを見出す。気持ちが落ち着いてきたセオドアはついに離婚の決意をするが──。(監督:スパイク・ジョーンズ 出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド、クリス・プラット、スカーレット・ヨハンソン、他)

 不思議な映画でした。
 実は別の映画を見ようと思ってたんだけど、それはすでにNetflixにはなく(そういうことよくあるよね(´・ω・`))、そのかわりにおすすめされたリストの中に入っていたので見たのでした。
 スパイク・ジョーンズ監督の作品といえば『マルコヴィッチの穴』が有名ですけど、これもかなり変な映画だった。好きですけど。
 人工知能型OS「サマンサ」(これは「彼女」が自分で名乗ったものだが、デフォルトのものではない)は人間みたいに会話ができる。すごく頭のいいSiriやアレクサやグーグルホームみたいなものか。近未来のロサンゼルスが中国っぽいな、と思ったら、上海でもロケをしているらしい。無国籍的かつ無機質な街の雰囲気に、孤独な主人公セオドアの心情が現れていると思いました。
 妻とは別居中で、いまだその痛手から立ち直っていない彼は、サマンサとの会話にのめりこみ、彼女こそ理想の恋人だと思うようになる。
 いろいろと頭に浮かぶ違和感をたとえ話で打ち消しながら見る私。違和感と言っても、「仮想現実を本物と思うなんて」とかの単純なものではなく──あ、いや、サマンサとイヤホンで会話しながら歩くセオドアが見た目には「独り言が激しい人」にしか見えない、という単純な違和感はありました(´ω`;)。でもそのうち、街中の人がそうやって歩くようになってくるんだよね。みんな様々な関係性で「サマンサ」に依存するようになる。たとえば、セオドアの友人エイミー(これエイミー・アダムスが演ってるんだけど、これまた別人のようだったなー)は離婚したあと慰めてくれる親友として。
 私が考えていた「たとえ話」というのは、「たとえば二次元の推しキャラに癒しを求めるのと変わらない」とか、「たとえば無機物と結婚する人もいるし」とか、そういうことです。無機物というか、昔探偵ナイトスクープで「マネキンと結婚したい人」というのを見て、すごく印象が残ってて。あと外国なんかだと、飼い猫と結婚するとかというのも聞くし。
「孤独」というのが一つのキーワードではあるんだけど、孤独だからそういう方向に行くというのとは違うと思うのです。人によって、あるいは状況によってダメージは違うし、サマンサを孤独をまぎらわすために使うこともないかもしれないし、アレクサみたいな便利屋さんとしてしか使わないかもしれない。「孤独」より「ヒマ」かどうか、が肝心かもね。ヒマつぶしで使ってたらどっぷり、みたいなのはスマホのソシャゲとかもあるじゃないですか。ヒマを埋めてくれる、しかも楽しい会話で、みたいなものだとしたら、のめり込むのも無理ないのかもしれない。
 とはいえ、サマンサはあくまでもOSだから、いつまでもそばにいてくれるし、自分を決して傷つけない、と思うじゃないですか。自分が飽きるまでは、みたいな。ところが彼女は「進化するOS」なので、変わってくるんです。自分の肉体がないことをなんとか克服しようと、セオドアに妙な提案をしてきたりする。セオドアも断ればいいのに、どうもこう強く出られない。他にもいろいろと──彼女のやることはいいことも悪いこともある。でも「それって個人情報やPC内のデータを勝手に使ってるよね(-ω-;)」というまた別の違和感が。
 しかしそれって、普通の恋愛と変わらないな、と思う。サマンサが「よかれと思って」と暴走しても、セオドアもそれがわかってるから強く言えない。相手がOSであっても、人間自身の思考は変わらないのですよね。
 そして幕切れも普通の恋愛と変わらない。「私はもっと進化したいから、あなたとは別れる」って人間の方が言われてしまうのです。OSなのに! いなくなったら、PCやスマホはどうなるの!? と思ったら、前に入ってたSiriみたいなのが何事もなかったかのように「何かご用ですか」みたいに出てくる。
 ユーザーから文句言われないのだろうか……。それともこれは最初からモニターみたいなもので、試用みたいなものだったのかな。あるいは、そういう進化をするとは提供する側も予測していなかったのか。
 タイトルについている「世界でひとつの彼女」というのは二重の意味があって、「セオドアの世界でただひとつの彼女」というのと、「世界でひとつの彼女を共有している」という意味がある。そりゃそうだよ、OSなんだもん……。でも、それさえも許せないくらいセオドアは傷ついてしまう。
 こんなふうに状況は違和感ありまくりなんだけど、彼の思考自体に違和感はないのです。それが「恋」だから。妻との不仲も、状況に違和感がないだけで、あとは同じなのです。
 彼の仕事は、家族や恋人に向けてうまく手紙を書けない人のための代筆です。うまく書けると感動的な名文になるんだけど、あくまでも代筆なのですよね。
 ラストにセオドアは、別れた妻に手紙を書くんだけど、そこに本心はあったのか、それとも本心は隠したままなのか──どちらにしろ、彼の本当の気持ちは測れないまま、終わる。冒頭よりも彼の孤独は深まっているとしか、私には思えませんでした。
 でも、人が相手ではないから、相手に罪をかぶせるわけにも行かず──結局自分を相手にしていたようなものだから、自らを見つめ直すという時間は充分に持てた、とも言えるのではないでしょうかね。
(★★★☆)
[Tag] * ★★★☆ * ロマンス映画

最終更新日 : 2019-05-08

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