2019 · 11 · 19 (Tue) 12:38 ✎
▼『レイチェル』ダフネ・デュ・モーリア(創元推理文庫)
従兄のアンブローズが滞在中のフィレンツェで結婚したと聞いた時、彼を兄とも父とも慕っていたフィリップは孤独を感じた。その後、アンブローズは亡くなり、フィリップは顔も知らない未亡人レイチェルに敵意を抱く。しかし彼女と顔を合わせた時、その気持ちはなくなり、次第に惹かれていく。だが、残されたアンブローズの手紙が疑惑をかきたてる。彼はレイチェルに殺されたのだろうか──?("My Cousin Rachel" by Daphne du Maurier, 1951)
従兄のアンブローズが滞在中のフィレンツェで結婚したと聞いた時、彼を兄とも父とも慕っていたフィリップは孤独を感じた。その後、アンブローズは亡くなり、フィリップは顔も知らない未亡人レイチェルに敵意を抱く。しかし彼女と顔を合わせた時、その気持ちはなくなり、次第に惹かれていく。だが、残されたアンブローズの手紙が疑惑をかきたてる。彼はレイチェルに殺されたのだろうか──?("My Cousin Rachel" by Daphne du Maurier, 1951)
「もうひとつの『レベッカ』」と言われている作品だそうです。疑心暗鬼満載のサスペンス。
コーンウォールの領地で暮らす主人公フィリップは、24歳の若者。従兄のアンブローズと二人で静かに暮らしていたが、彼が避寒で訪れたフィレンツェで従姉妹に当たるレイチェル(30代半ばくらい)と結婚したのち、脳の病気で亡くなる。これは家系的に出やすいものと言われていて、アンブローズの父も同じような症状で亡くなっているし、なんなら主人公フィリップだって受け継いでいるかも、という設定です。ところがアンブローズから「ついに彼女にやられた」という不穏な手紙をもらい、急いでフィレンツェへ赴くも、もう彼は亡くなっており、埋葬もされてしまっていた。フィリップは、レイチェルが従兄を殺したと思い、復讐を誓う。
しかし、レイチェルが屋敷に訪ねてくると、あっさりと恋に落ち、滞在を引き止める。周辺の住人たちや使用人たちも彼女に心酔し、人気者になっていく。
アンブローズの上着に隠された手紙が発見され、「彼らは私の毒殺を企んでいるのだろうか?」という一節を読んでも、25歳の誕生日に計画していることに向け、幸せいっぱいのフィリップ。だがその誕生日から、フィリップはひどい病気で寝込んでしまう──。
レイチェルに惹かれたフィリップは、実は誕生日に財産をすべて彼女に譲り、プロポーズをしようと考えていたのです。「断られっこない!」と思いこんでいるのは彼の若さ、世間知らずさ、領主としての傲慢さの表れでしょうか。あるいは恋の狂気か。
ところが、ことはそううまくいかない。レイチェルの真意がわからないまま、フィリップは病に倒れる。
とにかくレイチェルが怪しさ満点な描かれ方をしています。浪費癖があることや、アンブローズの前に結婚していた夫も死んでいる(決闘で、ですが)ことなどもわかってくる。イタリア人の弁護士ライナルディとやけに仲がいいし、園芸と薬草の知識に長けフィリップにいつも身体にいいという香草のお茶を飲ませている、なんてところを読むと、「逃げて! フィリップ逃げて(゚д゚)!」と思わずにはいられない。
でも、すべては状況証拠でしかない。
しかも、その真相はわからないまま終わるんですよ! 果たしてアンブローズは殺されたのか? フィリップ殺害も計画されたのか? その理由はやはり金なのか? ライナルディはレイチェルの愛人なのか? 前の夫の死も彼女が関与しているのか?
何もわからないまま、いきなり幕が降りる。フィリップの心に「罪悪感」と「後悔」の種を蒔いて。
ここまで読むと「何が面白いの?」と思われてしまうかもしれないね。「どうなるの?」と思いながら読み進めても、結局「何もわからない物語」なんて。なんか難しい、このお話の感想書くの……。
ただ読み終わって考えたのは、レイチェルのそれまでの人生です。
自堕落な親に育てられ、虐待なんかもあったのだろうし、最初の夫と結婚するまでもいろいろなことがあったでしょう。最初の結婚もうまくいったとは言えなさそうだし、アンブローズと結婚するまでも何をして生活していたのかわからない。アンブローズを殺したか殺さなかったかは別にして、彼の信頼を得ることはできなかったわけです。そして、フィリップも彼女を疑うしかなく、誰も彼女の真意を汲むことはできない。
「人から信頼されない」ということが普通の人生を歩んできた人が、「人から信頼されたい」と思ったとしても、どう振る舞ったらいいのかわからず、誤解や疑惑を消す方法なども知らず、ただ黙ってそばにいれば、そのうち信頼してもらえるのかも──と思ったのかな、と。
しかしこれも私の推測でしかないのです。最後の手紙もライナルディの言葉も、今後の展開を予測して用意されたものだったのかも。
レイチェルが結局どんな人だったのか、誰にもわからないまま、フィリップも読者も投げ出されて物語は終わります。
本当の罪とは、その人の中にずっと存在するもので、誰にも裁くことができないものなのかもしれません。人を、あるいは自分の気持ちを信頼できることこそ、幸せなのかもね。
(★★★★)
コーンウォールの領地で暮らす主人公フィリップは、24歳の若者。従兄のアンブローズと二人で静かに暮らしていたが、彼が避寒で訪れたフィレンツェで従姉妹に当たるレイチェル(30代半ばくらい)と結婚したのち、脳の病気で亡くなる。これは家系的に出やすいものと言われていて、アンブローズの父も同じような症状で亡くなっているし、なんなら主人公フィリップだって受け継いでいるかも、という設定です。ところがアンブローズから「ついに彼女にやられた」という不穏な手紙をもらい、急いでフィレンツェへ赴くも、もう彼は亡くなっており、埋葬もされてしまっていた。フィリップは、レイチェルが従兄を殺したと思い、復讐を誓う。
しかし、レイチェルが屋敷に訪ねてくると、あっさりと恋に落ち、滞在を引き止める。周辺の住人たちや使用人たちも彼女に心酔し、人気者になっていく。
アンブローズの上着に隠された手紙が発見され、「彼らは私の毒殺を企んでいるのだろうか?」という一節を読んでも、25歳の誕生日に計画していることに向け、幸せいっぱいのフィリップ。だがその誕生日から、フィリップはひどい病気で寝込んでしまう──。
レイチェルに惹かれたフィリップは、実は誕生日に財産をすべて彼女に譲り、プロポーズをしようと考えていたのです。「断られっこない!」と思いこんでいるのは彼の若さ、世間知らずさ、領主としての傲慢さの表れでしょうか。あるいは恋の狂気か。
ところが、ことはそううまくいかない。レイチェルの真意がわからないまま、フィリップは病に倒れる。
とにかくレイチェルが怪しさ満点な描かれ方をしています。浪費癖があることや、アンブローズの前に結婚していた夫も死んでいる(決闘で、ですが)ことなどもわかってくる。イタリア人の弁護士ライナルディとやけに仲がいいし、園芸と薬草の知識に長けフィリップにいつも身体にいいという香草のお茶を飲ませている、なんてところを読むと、「逃げて! フィリップ逃げて(゚д゚)!」と思わずにはいられない。
でも、すべては状況証拠でしかない。
しかも、その真相はわからないまま終わるんですよ! 果たしてアンブローズは殺されたのか? フィリップ殺害も計画されたのか? その理由はやはり金なのか? ライナルディはレイチェルの愛人なのか? 前の夫の死も彼女が関与しているのか?
何もわからないまま、いきなり幕が降りる。フィリップの心に「罪悪感」と「後悔」の種を蒔いて。
ここまで読むと「何が面白いの?」と思われてしまうかもしれないね。「どうなるの?」と思いながら読み進めても、結局「何もわからない物語」なんて。なんか難しい、このお話の感想書くの……。
ただ読み終わって考えたのは、レイチェルのそれまでの人生です。
自堕落な親に育てられ、虐待なんかもあったのだろうし、最初の夫と結婚するまでもいろいろなことがあったでしょう。最初の結婚もうまくいったとは言えなさそうだし、アンブローズと結婚するまでも何をして生活していたのかわからない。アンブローズを殺したか殺さなかったかは別にして、彼の信頼を得ることはできなかったわけです。そして、フィリップも彼女を疑うしかなく、誰も彼女の真意を汲むことはできない。
「人から信頼されない」ということが普通の人生を歩んできた人が、「人から信頼されたい」と思ったとしても、どう振る舞ったらいいのかわからず、誤解や疑惑を消す方法なども知らず、ただ黙ってそばにいれば、そのうち信頼してもらえるのかも──と思ったのかな、と。
しかしこれも私の推測でしかないのです。最後の手紙もライナルディの言葉も、今後の展開を予測して用意されたものだったのかも。
レイチェルが結局どんな人だったのか、誰にもわからないまま、フィリップも読者も投げ出されて物語は終わります。
本当の罪とは、その人の中にずっと存在するもので、誰にも裁くことができないものなのかもしれません。人を、あるいは自分の気持ちを信頼できることこそ、幸せなのかもね。
(★★★★)
最終更新日 : 2019-11-19