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2019 · 12 · 19 (Thu) 09:57

◎『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』尾崎俊介

◎『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』尾崎俊介(平凡社新書)
 世界114か国、28言語以上で読まれ、恋愛小説の代名詞として知られる「ハーレクイン・ロマンス」とどう読まれ、書かれてきたか。偉大なるマンネリ小説から、アメリカ社会を読む。(帯裏より)

 前の記事に書いたとおり、ロマンスクラスタの方々の間でちょっと話題になっている新書です。
 ハーレクイン・ロマンスやハーレクイン社だけでなく、ロマンス小説自体やハーレクイン・ロマンスの供給源であったミルズ&ブーン社、イギリスやアメリカの出版業界の歴史についても書かれていて、読み応えあります。

 この本によると、ロマンス小説の歴史は1740年にイギリスで書かれたサミュエル・リチャードソンの『パミラ』から始まったとのこと。書簡体小説で、貴族階級の屋敷で侍女をしているパミラが、屋敷を引き継いだ新しい主人のセクハラを交わし続け、ついに彼を改心させて結婚に至る、という物語。(今度探して読んでみます)
 あれ、あらすじに既視感が……。変わらない……変わらないな、ロマンス小説(´ω`;)。「偉大なるマンネリ小説」という帯の文言にちょっと「ん?」と首を傾げたのですが、こりゃー確かに「マンネリ小説」だわ。
 この『パミラ』から始まり、ハーレクイン・ロマンスに至るまで、ロマンス小説というのは以下の三条件を満たしているものだと尾崎氏は言う。

「ヒロインの視点から物語が語られること」
「ヒロインが内面の美しさによって高嶺の花のヒーローの心を捉えること」
「ヒーローとの幸福な結婚により、ヒロインの社会的・経済的地位が上昇すること」


 確かにこのとおりなんだけど、私はこの裏に連綿と続いている隠しテーマ「ダメ男を改心させる」も入れたいです。この場合の「ダメ男」とは飲んだくれとか借金まみれとか暴力男とか、そういう本当にダメな人ではなく、「人に心を開かない」とか「自分を一番だと思っている」とか「頑なで妙な偏見を持っている」とか、そういう人間的にアレな部分のある人のことね。
 どうしてロマンス小説のヒーローがそういう奴なのか、と考えると、二番目の条件「ヒロインが内面の美しさによって高嶺の花のヒーローの心を捉えること」を際立たせるためなんだな、と改めて思いました。ヒロインより内面が美しい男性は、ヒーローになりえない。こういう人はあくまでもサブキャラで、この本にも出てきた『高慢と偏見』でいえば、ヒロインの優しい姉と結ばれるビングリーみたいなもの。
 自分の非を素直に認めるような男はヒーローにならないってのもどうかな、と思ったりしますが、欧米の小説なのである意味「救済の物語」なのかしら、とも思ったり。けどこの「救済の物語」というのは、いろいろな意味でロマンス小説にあてはまる。
 第六章「ロマンス小説を読むのはなぜ後ろめたいか」では、ロマンス小説が今も昔も女性が現実から逃避するためのものであったことが書かれています。忙しい毎日の中に作るつかの間の自分の時間──そこにはロマンス小説があり、読者はヒロインになりきったり、ヒーローに萌えたりして、元気をチャージする。読まれ方は変わらないのです。その中で何人も救われた人がいたはず。それも変わらないし、そういう人がまたロマンス作家になって、別の人を救っていくという連鎖もある。
 現実から逃避するための楽しみ、というのは現代はいくつもあるのですけど、そういう目的で書かれる読み物というのは今も昔も軽視されがちです(そんなものに救済されなくても生きていける人はたくさんいるけど、そういうものじゃないと救われない人もいるんだよなー(´・ω・`))。このロマンス小説しかり、日本ならばラノベしかり。マンガもその中に入るでしょう。日本にロマンス小説が今ひとつ浸透しないのはやっぱりマンガが面白すぎるせいだと思うんだよなー。特に少女マンガね。
 これは少女マンガだけが「面白すぎる」というわけではなく、女性を対象にした物語だというところで特に取り上げました。後半のコラムで「ハーレクイン・ロマンスとコバルト文庫」というのがありましたけど、確かにコバルト文庫などの少女小説系ラノベとハーレは似た傾向があると思いますし、このコラムの本質はそこなので間違っているところは一つもないのですが、少女マンガとの親和性や競合する部分や少女小説系ラノベの市場はだいぶ縮小している点とかも突っ込んでほしかったな──というのは私のわがままです。ハーレのマンガもちゃんと取り上げているのですもの。ただそれをやり始めるときりがないというのはわかりますけれども(´ω`;)。
 小説ではないのでいつもの評価はしませんが、ロマンス好きな方には超おすすめです。

最終更新日 : 2019-12-19

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