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2020 · 03 · 12 (Thu) 16:24

◆『思い出の眠る町』フィリス・ホールドーソン

◆『思い出の眠る町』フィリス・ホールドーソン(ハーレクイン)
 ネブラスカ州レインダンス。この小さな町でキャロルは生まれ育ち、そして幼い頃から恋い慕っていたブライスと18歳の時に結婚した。しかし2年後、幸せな結婚生活はもろくも崩れ去る。スキャンダルにまみれたキャロルは両親とともに町を出、それから8年──ロサンゼルスでキャリアウーマンとして働いているキャロルは、レインダンスに帰ってきた。("Return To Raindance" by Phyllis Halldorson, 1988)

「ヒーローはまともじゃない?」の記事に引きずられているのかなんなのか、これもヒーローとヒロインの逆転ものみたいな作品でした。
 つまり、ヒロインの方がダメな人で、ヒーローがそのため傷つき、やっと立ち直って誠実な人と再婚しようとしていたところにヒロインが戻ってくるというお話。ううーん、既視感(´ω`;)。ヒーローヒロインを逆転すれば、腐るほどあるパターンです。夫婦元サヤものでもあります。
 ヒロインのキャロルは、かつては甘やかされたわがまま娘で、美人で町の人気者であった。ヒーローのブライスも誠実で真面目でハンサムな人だから、「お似合いのカップル」と言われ、盛大に祝福されて結婚したわけです。
 しかしまだ子供のキャロルは家事も料理もできないし、なにかあると実家に頼るような態度(ブライスは自分のことは自分でやっていた模様)。仕事の忙しい夫に振り向いてもらいたくて、流れ者の男ジョエルと遊び回る。夫に嫉妬させたいだけだったキャロルだが、ホテルに連れ込まれて襲われそうになったところで夫に踏み込まれる。
 そこで謝ればいいのに、「別れるから(゚Д゚)!」と心にもないことを言ったことで夫は「好きにしろ!」と帰ってしまう。そのままジョエルに連れられていった農家で酔っぱらって寝てたら、警察のガサ入れに巻き込まれる。実はジョエルは麻薬の売人で、ずっと警察に張られていたようなのですよね。
 キャロルはそのまま逮捕され、新聞にジョエルとの写真を載せられて大スキャンダルになる。すぐに無罪放免になるけど、当然離婚。両親ともに故郷を追われ、親戚を頼ってカリフォルニアに移住して8年。大学を出てテレビ局で真面目に働いているけれど、いまだに夫のことを愛していて──というお話。
 まあね、実際にヤッてなくたって(すみません、下品で)、夫以外の男と堂々とデートはしていたんだし、ホテルの騒ぎのあと実家にでも帰ればいいのにそれもせず、あげく新聞にどうしようもない写真が載ってしまったんだから、「浮気した」とか「麻薬売人の愛人だった」と誤解されるのは無理ない状況なんですよね。それどころか、なかなかに取り返しのつかない状況だと思いますよ(´ω`;)。「誰も信じてくれなかった(つД`)」とキャロルはいまだに嘆いているけど、かなりドン引きな過去ですよ……。
 ある意味、それまでの行いが不信の種になったと思えるよね。好感度高いタレントの不倫のニュースが流れると、あっという間に掌返されるみたいな。「え、好感度高かったんじゃないの? かばうファン少なくない?」と思ったりしますが、それって好感度じゃなくて「嫌う理由がない」ってだけなんだなあって。人は「嫌う理由」があれば、簡単に「嫌い」に転じる。キャロルはわがままできれいで、町一番のイケメンと結婚もしてて、なんでも手に入れられる人だったんだけど、それに嫉妬したり苦々しく思ったりしてた人はいたはずなのです。でも、そういうことを大っぴらに言える雰囲気ではなかっただけなんだよね。町の実力者の娘でもあったし。もちろん、田舎町特有の排他的な雰囲気もあると思うけど。
 つまり、みんなから本当に好かれていたのならもっと信頼されていたはず、というヒロインなのですよねー。けど、そういう女の子だったらあんなあさはかなことはしないだろうな……。
 そういう人だから、「私は変わった!」と訴えても、なかなかブライスに信じてもらえない、というお話なのです。だから、どうやって信頼を回復していくか、という展開になっていくんですが、ちょっと説得力が薄いかな、と思いました。最後はブライスの気が変わるかどうかってことになっちゃってたし。極悪ヒロインといえばマーゴット・ダルトン『私のいう名の他人』もたいがいでしたが、これほどの説得力はいくらなんでも望めないか……。丁寧な描写を重ねていて、このくらいで落とし前つけるのが現実的とは感じましたが。
 ところで、町に戻るきっかけになった土地のことがほったらかしで終わったけど、スピンオフがあるそうなので、そっちで解決するのかな?
(★★★☆)

最終更新日 : 2020-03-12

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