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2020 · 09 · 06 (Sun) 14:06

□『もう終わりにしよう。』

『もう終わりにしよう。』"I'm Thinking Of Ending Thing" 2020(Netflix)
 雪の降るある日、ルーシーは彼氏のジェイクと田舎道を車で走っていた。初めて彼の両親の家へ行く。つきあいだして間もなく、これが初めての遠出だ。これから何が起こるのか、もっとわくわくしていいはずなのに、ルーシーはそんな気分ではなかった。なぜなら、もう終わりにしようと思ってるから。(監督:チャーリー・カウフマン 出演:ジェシー・プレモンス、ジェシー・バックリー、トニ・コレット、デイヴィッド・シューリス、他)

 原作が気に入ったので、9/4に配信された映画化作品を見ました。Netflixオリジナル映画です。
 どんなふうに映像化するのかな、と思っていたのですが、けっこう原作どおりだった。でも、ラストの方ではもっとふくらませて、というか、もっと妄想過多だった。原作がサスペンス&ホラー寄りなラストであったとすれば、映画ではなんとミュージカル! 監督のチャーリー・カウフマンは、『マルコヴィッチの穴』や『エターナル・サンシャイン』の脚本を書いていて、変な話を得意とする人ですが、こう来たか!
 原作よりもずっと情報量が多いです。ほとんどヒロインのルーシーとその彼氏ジェイクの会話で話が進むのに、その会話の中にたくさんのフラグが埋め込まれている。原作でもそうだったけど、伏線というより「フラグ」なんだよね。「ひっかかり」とでも言うのかな。
 二人がとても知的という設定なので、話題に全部はついていけません。たとえばミュージカルの『オクラホマ!』とか。タイトルは知っているけど、舞台も映画も見たことがないし、今でもアメリカの高校で上演され続けているなんて知らない。ロバート・ゼメキスの名前が出てきた時も「どういうこと?(´д`;)」と戸惑ったし、ジョン・カサヴェテス監督の『こわれゆく女』もしばらく思い出せなかった。とりとめない雑談に眠くなるシーンもないではない。特に後半。(この記事を読むと、もっといろいろ埋められていたものがわかるようになっています。英語かつネタバレ全開ですが、興味ありましたら→ Charlie Kaufman’s Guide to ‘I’m Thinking of Ending Things’: The Director Explains Its Mysteries
 二人でジェイクの田舎の家を訪問して、気まずい夕食の卓を囲んだあと、帰路でジェイクが突然「甘いものが食べたい」と言い出す。アイスを買ったはいいけど、冷たくて食べきれず、捨てるゴミ箱を探しに高校へ寄るが、そこで──というお話で、なぜかそこからミュージカルになっていくんだけど、見終わった時、私は少し首を傾げてしまった。原作を読んだ時、私は、

「これは物語をどう『終わらせようか』と考えているうちに、自分の終わり方も悟る話」

 と認識したんだけど、映画では自らの終わり方を選択していないように見えたのです。物語というか、ぶっちゃけ「妄想」なんですけど、その終わり方もちょっとハッピーエンドというか、都合のいい感じになっている。

「えー、このラストはちょっと納得いかないなあ」

 とモヤモヤしながら考えていたら、夜、お風呂に入っていた時にΣ(゚д゚)ハッ! と思い至る。

「あれは、『自分の死期が近い』と悟ったから、妄想を終わらせようと思ったのではないか?」

 そして、妄想の終わりとともに、自らの命も終わることを知っていたのではないか。
 そんなふうに考えると、あの適当なハッピーエンドもうなずける。構想を練る時間が、もう彼には残されていなかったのですよね。
 構造的には真逆に見えるのに、結論としては同じようなものにしている。手練な脚本で、映画の終わり方のほうが優しくふわっとしている、と感じました。少しは気分的に楽に終わらせたかったのかな。どちらかといえば好みは原作の終わり方だけれど、どちらもちゃんと物語を終わらせてから自分の終わりを受け入れる、というお話だったから、どちらも物語的に美しい。

[9/9追記]
 またまた風呂に入っている間に考えました。(お風呂の中で何か思いつくこと多い)
 上記のように「死期を悟って」という展開だと、原作で私が一番気に入った「妄想に飽きたことへの絶望感」(一応反転)はないのだな、と気づいたのでした。「終わらせたくないけど終わらせる」のと「終わらせたくないけど終わってしまった」では全然違う。
 とはいえ、あの絶望感を実感できる人は、おそらく圧倒的に少ない……。映画の製作側もわかる人とわからない人がいたんだと思う。それでああいうラストになったのかな。
 大切なのは「終わらせたくないけど終わる時は終わる」ということ、と割り切ったのかもしれないねえ。
(★★★★)
[Tag] * ★★★★

最終更新日 : 2020-09-09

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