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2021 · 09 · 19 (Sun) 20:59

▽『支那扇の女』横溝正史

▽『支那扇の女』横溝正史(角川e文庫)
 東京、成城学園の高級住宅地で、パトロール警官と近所の者たちが橋の欄干から飛び降りようとしている女性を止めていた。彼女は朝井美奈子といい、小説家・朝井照三の妻だ。やがて抵抗をやめた美奈子だったが、警官は彼女の袖口に血がぐっしょりとついているのに気づく。
・〈金田一耕助〉シリーズ

 舞台が一緒で、なおかつ『壺中美人』内にこの『支那扇の女』にも出てくる警察関係者がいたものですから、ごっちゃになってしまったのでした……。
 読んだきっかけは、NHKの池松壮亮主演『シリーズ横溝正史短編集』の第3弾にこれに収録されている短編「女の決闘」が入っている、というニュースを見たからです。他の作品「女怪」(『悪魔の降誕祭』収録)、「蝙蝠と蛞蝓」(『人面瘡』収録)はすでに読んでいるので、こりゃ読んどかねば、と思いまして。

「支那扇の女」は、朝井家で先妻の母親とお手伝いさんが殺されているのが発見され、当然美奈子が疑わる。夢遊病持ちである彼女が前後不覚の状態で殺したのではないかと。彼女の大伯母・克子は明治時代に毒殺魔と言われて獄死している。そんな克子を描いた「支那扇の女」という肖像画が自分にそっくりなことを知った美奈子は、ひどく気に病んでいた。だが、その絵を手に入れ、見せた照三の不可解な行動が次第にわかってくる──というお話です。
 短めな長編(中編)なので、展開はスピーディー。金田一の意外な協力者も現れます。ラストも「あー、すっかり忘れてたわー」となってしまいました。不覚(´・ω・`)。
 照三のキャラが、なかなかエグい。サディストと作中では言われていますが、今風に言えばコントロールフリークのモラハラ ガスライティング男です。いいサンドバッグは徹底的に洗脳して、しゃぶり尽くすというタイプ。対象に男女の区別がなく性的な支配でもないので、周辺に気づかれにくいところも妙にリアルです。いやな人書くのがうますぎる(´ω`;)。
 彼の思惑を知り、凶行に走る犯人はかわいそうな立場であるはずなのだが、だからといってそこまでするか、という展開なのであまり同情心が湧かない。だけど後味が悪いわけでもなく、なんだか出来のいいB級サスペンス映画を見たような気分になりました。

「女の決闘」も小説家が重要人物として出てきます。女性誌に掲載された金田一ものだそうです。
 タイトルどおり、前の妻と今の妻の対決話です。帰国するロビンソン夫妻のさよならパーティーに招かれた流行作家・藤本哲也とその妻・多美子。だがその場には、藤本の前妻・泰子も来ていた。ロビンソン夫人は泰子を呼んだ憶えがないという。その後、多美子と泰子が仲良くソフトクリームを食べていたところ、多美子が突然倒れ、激しく身体をけいれんさせた──。
 真相を知ることができないまま出国したロビンソン夫妻に当てた金田一の手紙で終わる短編です(こういう終わり方もけっこうあるな)。途中でタネがわかりましたが、それでも面白かった。泰子と多美子、どちらが勝ったか──というか、その勝ち方に溜飲が下がる。
(★★★★)

最終更新日 : 2021-12-19

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