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2022 · 02 · 02 (Wed) 15:22

▽『仮面舞踏会』横溝正史

▽『仮面舞踏会』横溝正史(角川e文庫)
 昭和35年、夏。台風が軽井沢を襲い、一夜明けた朝、別荘で画家・槇恭吾の死体が発見される。彼は、女優・鳳千代子の3番目の夫。1年前には最初の夫、2年前には2番目の夫が亡くなっている。千代子の現在の恋人で、財界の大物である飛鳥忠熈は彼らの不審な死を調べてもらうため、金田一耕助に依頼をしていたが──。
・〈金田一耕助〉シリーズ(金田一耕助ファイル17)

 NetflixにあるTBSテレビドラマ版の金田一耕助シリーズ(古谷一行主演)を見続けていて、あと一本(全部はない)がこれ、というところまで来まして。
 映画『病院坂の首縊りの家』の記事の時にも書きましたけど、私、金田一耕助シリーズを順番どおりに読んでいるのです。ただかなりゆるく。事情がある場合はすっ飛ばして読む。この『仮面舞踏会』もかなり後半の作品なのですが、ドラマ見たさに読んだよね……。
 軽井沢が舞台の金田一ものってけっこうあるし、何度か結婚している女性の夫たちが集結して殺されて、という短編もあったなあ、と思い出す。
 最初のうちはそういう感じで読んでいったんですけど、犯人と、犯人以外の諸悪の根源の人があらわになったら、まあ後味が悪い(´д`;)。なかなかひどい話です。
 3番目の夫が殺されてから、ほどなくして4番目の夫・作曲家の津村真二も殺される。なぜ千代子の元夫ばかり死んでしまうのか。そして、なぜ彼女は彼らと離婚をしたのか、という疑惑も生まれてくる。彼女の5番目の夫になろうとしている飛鳥は、そのことを金田一に調査してもらいたい。
 とにかく登場人物が多いです。千代子の元夫二人、現恋人の飛鳥とその家族、千代子と最初の夫・笛小路泰久の娘・美沙、美沙と同居している泰久の母・篤子が各々別荘に、そして千代子はホテルに、さらに金田一耕助──と軽井沢に役者が全員集められている。しかもこれですべてじゃないし、「仮面舞踏会」というタイトルどおり、みんな正体が見えなくて怪しい。最初は登場人物の多さにちょっと読みにくいと思ったんだけど、紹介が終わると展開は怒涛のように動き出す。
 物語のポイントは、16歳の千代子の娘・美沙と、「色覚異常」です。この作品自体は古いものなので、当時言われていた「色盲」という言葉で表されていますが、現在はこの言葉はほぼ使われていませんよね。ただ、この作品内ではその見え方がどうこうではなく、「遺伝」の問題として使われている。つまり、「美沙は誰の子供なのか」という疑惑がポイントになってくるのです。
 当然千代子のいわゆる「托卵」が疑われていく──とここまででも充分なネタバレではあるんだけど、真相はさらにそれを上回る。ロマンス小説読んでると、ひどいババアが諸悪の根源という話がけっこうありますけれど、この作品のババアはそれを軽く超えてきたね(´ω`;)。まさに鬼畜。人を金づるとしか見ない奴。
 ドラマの方ではちょっとマイルドな演出になっていたけど、それにしたってずっと黙っていたら「そういうことでしょ」としか思えない。もちろん「戦争がなければ」という話でもあるんだけど。
 それに、いくらそのババアが悪いと言ったって、千代子は美沙を預けていたわけだし……。(名前伏せる意味ないな(´ω`;))
 大人がいずれもダメかおかしくて、まともな人は逃げるだけ。そんな中に置かれた子供はかわいそう……かわいそうだけど……いや、ここまで追い詰めなくても!
 とにかく最悪な結末って感じのお話です(´・ω・`)。後味の悪さでは今んとこダントツかもしれない。面白いことは面白いけど、その読後感からおすすめにはできない……。

[5/2追記]
 と思ったんだけど、イヤミスというジャンルもあることだし──後味の悪いものを読みたいという人も決して少なくないとも言える。(このブログ的には少ないかもだけど)
 作品の出来だけでいったら、やはり「★★★☆」より「★★★★」かな。
(★★★★)

最終更新日 : 2022-05-02

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