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2022 · 02 · 12 (Sat) 16:14

▽『吸血蛾』横溝正史

▽『吸血蛾』横溝正史(角川e文庫)
 注目のファッションデザイナー兼モデルの浅茅文代。彼女の代役をショーで務めたモデル加代子が何者かに拉致され、死体となって発見される。その後も文代専属のモデルが次々と姿を消し、無残な姿で殺される。まるで狼に胸を食いちぎられたように──そして、その血溜まりにはなぜか蛾が添えられて。
・〈金田一耕助〉シリーズ

 華やかなファッションデザイナーである文代は何者かに脅されている、と途中でわかるのですが、そのお金を渡すシーンで、私はとある誤解をしてしまいました。
 いや、誤解はしてないんです。そのはずはない、とわかってましたから。でも、その脅迫者がかぶっている帽子が「くちゃくちゃに形のくずれたお釜帽」というのを読んだら、どうしてもその人は「金田一耕助」と思ってしまうではないですか。だって、しょっちゅうそういう表現出てくるよ、金田一耕助の登場シーン……。彼くらいしかそんな帽子かぶってないよ! そういうのって、一種の記号みたいなものじゃないの? そのキャラクターのさ。
 しかも、金田一が出てくるまで三分の一くらい読まないといけなくて──ちょっと「まさか」とか思ってしまった。
 そういう点で混乱した作品でした。「くちゃくちゃに形のくずれたお釜帽」というのは、作者の中では別の示唆がある表現なんでしょうね(風来坊的な人、とか)。
 その混乱は置いておくにしても、今回の金田一、ちょっと見せ場が少ないというか、なんだか聞き役というか、じっと見守って、最後にようやく謎解き、という感じなのです。重要な発言をしそうだった人をほっぽらかして殺されちゃったりね。いや、他のも基本的にそんな感じなんですけど、この作品では彼のひらめいた瞬間、手がかりをつかめそうな一瞬みたいなところがあまりない。視点が彼から離れている部分が多いからかな。
 実際は最後の最後にならないと解決しない──つまり、犯人の計画がほぼ達成されないとわからない、という展開であっても、金田一の「ひらめき」を読者が後追いできる方が楽しいんだな、と思いました。そこ読んでわかるわからないではなく、それが大きなひっかかりであり、彼の見せ場になってるんだな、と。
 それから、「吸血蛾」というタイトルですけど、蛾というか「吸血」より「狼男」が犯人であり、蛾はその狼男の身内が昆虫館をやっているから、だと思われる。そういえば、途中からあまり意味なくなってきちゃったね……。
 中川信夫監督で映画化されているそうで、そっちが見たいな。
(★★★)

最終更新日 : 2022-02-13

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