Top Page › 映画の感想 › 新作の感想(2022) › □『我々の父親』

2022 · 05 · 17 (Tue) 13:34

□『我々の父親』

『我々の父親』"Our Father" 2022(Netflix)
 ひとりの女性が行ったDNA検査により判明した複数の異母きょうだいの存在。やがて彼女がたどり着いたのは、有名不妊治療医と精子提供をめぐる衝撃の事実だった。(Netflixの紹介文より)(監督:ルーシー・ジョーダン)

 いやあ、久々に胸糞悪い、気持ち悪い、後味悪いと三拍子そろったドキュメンタリーを見てしまいました。Netflixオリジナル作品です。
 元々犯罪ドキュメンタリーを好む私ですが、これで一番腹が立ったのは、この「事件」が実は事件として認められないこと。不妊症に悩む女性に対して、いわゆる精子バンクの精子を使って人工授精を行うと言っておきながら、実は医師本人の精子を使っていた、という──もちろん同意もなく、説明とは違うことをして、勝手に自分の「子供」を増やしていたという非道な医師を裁く法律がない、ということがとにかく胸糞悪い。
 その医師──「犯人」としては、バレるなんて思ってもいなかったんだろうけど(バレた経緯はぜひ見て確かめて)、バレても特に罪悪感もなく、むしろなんで責められるかわからない様子であった。告発した女性──自分の「娘」に対して、「君が言ったせいで」みたいなことも言っている。お前が諸悪の根源やんけ(゚д゚)! なんだこいつ!
 自分のしたことを認識しているにも関わらず、この態度ですよ。頭おかしいよね。
 ただ、頭おかしいのは彼だけではないというのが見ているうちにわかってくる。彼の家族、所属している教会、コミュニティ自体がこいつをかばうんですよ。その町の実力者であり、重要人物であり、その他の名士とも懇意だから。なんなの、『ミッドサマー』なの!? 『獄門島』なの!?
 スーザン・フォックスの『黒い羊』という作品にも、こういう雰囲気のコミュニティが出てきて、その時は「古いハーレだからな」みたいに思ったんですが、今でも変わってないじゃないですか(゚д゚)! おかしな人が上の方にいると、コミュニティ全体がおかしくなる。反論や正しい主張をしても、そこで暮らしていく限り、声は消される。訴えでた女性は、まさに「黒い羊」なんだ……。「犯人」の家族、最初のうちは協力してくれていたのに……ああ、なんとも気持ち悪い。
 気持ち悪さで言えば、動機がわからないのもね……。けどなんかちょっと、横溝正史の『悪魔の手毬唄』を思い出したんだよね。細かいところは伏せますが(くわしいことはリンク先で)、あの作品でのある「動機」って、コミュニティ内のヒエラルキーが原因になってたんですよ。「自分だけがすべてを知っている」ことで周りから数段優位に立ったと思えるというか……最後に出てきた「きょうだい」と「犯人」の関係を知って、「もしかしてそうかも」と戦慄しました。
 相手や周囲の人間が知る知らないは関係なく「自分だけが知っている」って、「神」みたいな存在じゃないですか。
「犯人」は非常に熱心なキリスト教徒であったようだし、カルト宗教が関係しているのでは、という推論もあったりしますが……真相はまだわからない。それを話させる場に「犯人」を出す方法がないから。
 いろいろ考えて、夜眠れなくなったですよ(´・ω・`)。親子関係は明らかなんだから、「子供」たち全員(もうすでに何十人もいて、まだいるらしい)で養育費を請求するのはどうだ!? と思ったり。夫婦の夫の精子を使うと言いながら自分のにすり替えていたこともあったようなので、夫側の精神的苦痛に対する裁判を起こすとか──。
 ただうかつに裁判を起こすと、のちに何か法律ができた時、同じ罪で裁くことができなくなったりするし、お金出して向こうに終わった気にさせるのも癪に障る。とはいえもう「犯人」はかなり高齢のようなんですよね。時間もないし、死んだ時の相続ってどうなるの? と思ったが、多分もう対策はしてありそうだよ(くやしい)。あいつは多分、無一文で死んでいく。肩書も「元医師」となっていたけれど、それで気はすまねえよ(゚Д゚)!
 評価には悩むところです。胸糞悪さで言えば「おすすめ」にはできないって気分なのですが、これを作った人、そしてまだ戦い続けている人たちからすれば、この「事件」を知られることこそ望んでいると思うので、「おすすめ」にします。
(★★★★)
[Tag] * ★★★★

最終更新日 : 2022-05-17

Comments







非公開コメント