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2022 · 07 · 30 (Sat) 20:41

▽『悪魔の寵児』横溝正史

▽『悪魔の寵児』横溝正史(角川e文庫)
 雨が降り続く梅雨の時期のある日、吉祥寺の文具店にレインコートと煤色のメガネをかけた男がやってきて、ハガキを注文する。差出人は風間美樹子と石川宏。そのハガキを受け取った三人の女たちは、いずれも実業家・風間欣吾の愛人だった。風間美樹子は欣吾の正妻で、石川宏は彼女の肖像画を書くために雇われた画家だった。
・〈金田一耕助〉シリーズ(金田一耕助ファイル15)

 あらすじ書いてみて、これじゃなんだかわからない……と自分で自分にツッコミたくなったけど、冒頭部分の情報量がかなり多いんだな、と思いました。読んでるとあまり気にならないし、せいぜい金田一耕助が出るまで時間かかるなあ、と思う程度。でも、それまでに充分にお膳立てを整えているのですね。相変わらず横溝正史は読みやすい。
 文具店で刷ってもらったハガキには、何者かによって黒枠が描き加えられていた。心中のための挨拶状にしか見えないことに不安になった欣吾の愛人たちは、石川宏宅へ向かう。宏は、愛人の一人・城妙子が経営するバァカステロで働く早苗の兄なのだった。早苗と宏が暮らす家には、果たして宏と美樹子が心中そのものの様子で横たわっていた。美樹子は死んでいたが、宏にはまだ息がある。あわてふためく愛人たちだが、そこに居合わせた新聞記者の水上三太と風間欣吾によって事件は秘匿されることになる。欣吾は美樹子を自宅に引き取り、宏は病院へ運ばれるが、美樹子の死体はいつの間にかなくなっていた。不可解な事件に、欣吾は金田一耕助に調査を依頼するが──。
 その後、次々と人が殺されていくわけですが、横溝正史のエログロな作品の中ではトップクラスの凄惨さです。特に愛人たちの殺され方ね。かなり非道な扱いをされるのですが、登場人物にまともな人がほぼいないので、そんなにいやな気分にならない。いや、それもどうなんだって話ですけど(´ω`;)。金田一耕助だけが別世界にいるみたいな雰囲気です。
「悪魔の寵児」というタイトルと、途中で出てくるとある女性の存在から犯人は見えていたのですが、意外なのは、最後にある意味この犯人より悪魔なのが誰なのか明かされることです。ていうか、犯人は「悪魔」の寵児ってことなのか……。悪魔というより「怪物」なんですけどね。
 その怪物は、類稀な才覚と有り余るエネルギーで周囲をブルドーザーのごとくなぎ倒し、底なしの欲望をすべて叶えていく。自分が発端になった犯罪であっても、それでめげるような人じゃないのです。この人もまた、次元が違うところで生きてる、と思いました。だからある意味、すっきりしないラストかもしれない。「お前、ひとっつも反省してないな!(゚д゚)」っていうか、犯人の復讐が全然こたえてないみたいだからな、この人。私は面白く読みましたが。
 それにしても、この本の表紙は今どきでは使えなそうな……。
(★★★★)

最終更新日 : 2022-08-03

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