2022 · 10 · 29 (Sat) 09:31 ✎
◎『統合失調症の一族 遺伝か、環境か』ロバート・コルカー(早川書房)
第二次大戦後、ギャルヴィン一家はコロラド州に移住し、12人の子宝に恵まれた。しかし子どものうち6人に異変が起きる。修道士のようにふるまう長男、自分はポール・マッカートニーだと言い張る末っ子……。彼らはなぜ統合失調症を発症したのか。家族の闇に迫る。(Kindle版「この本の情報」より)("Hidden Valley Road" Robert Kolker, 2020)
※タイトルをクリックすると、冒頭部分を試し読みできます。

第二次大戦後、ギャルヴィン一家はコロラド州に移住し、12人の子宝に恵まれた。しかし子どものうち6人に異変が起きる。修道士のようにふるまう長男、自分はポール・マッカートニーだと言い張る末っ子……。彼らはなぜ統合失調症を発症したのか。家族の闇に迫る。(Kindle版「この本の情報」より)("Hidden Valley Road" Robert Kolker, 2020)
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タイトルと「この本の情報」から察せられるように、子供12人のうち6人が統合失調症を発症した一家に関するノンフィクションです。
面白かった──という言い方は適切ではないかもしれませんが、なんだかグイグイと引き込まれ、ほぼ一気読みでした。集中力家出中の私としては大変珍しい。12人の子供全員と両親、そして治療に当たる医師や統合失調症の研究者たちというたくさんの人の視点をいったりきたりするのですが、元の構成がいいのか、それとも翻訳が素晴らしいのか(多分両方)、ほんとに読みやすい。淡々と書かれているのもいいのかも。
サブタイトルに「遺伝か、環境か」とついていますが、これは統合失調症の未だわからない点の一つらしいです。ただ現在では、統合失調症に関する遺伝子はわかっているらしい。しかし、それを持っていても発症するとは限らない。その遺伝子と環境要因が結びついて発症するのでは、と言われている。
つまり、同じ両親から生まれた12人のうち、6人が発症して、6人がそうではない家族、というのは、統合失調症を解明するために非常に重要な存在であった、というお話なのです。
12人のうち10人が男子で、そのうちの6人が発症している(「情報」の「末っ子」は「男の兄弟」の一番下のこと)。彼らの下の二人の女子たちは、私と同世代です。長男と末っ子はちょうど20歳違う。ギャルヴィン一家は、1960年代から現在(この本では2018年)まで、ずっと病気と闘ってきたのです。それは、アメリカの精神医学の歴史とも重なっている。
いやあ……壮絶です。作者が「すべて真実」と記しているのがまたびっくり。フィクションの部分はないそうなんですよ。関係者全員に話を聞いて、資料をすべてあたり、会話一つとして推測なしという……内容も執筆も壮絶。
1人1人の発病や闘病についての箇所もすごいんですけど、とにかく一家の母親・ミミが、12人の子供をワンオペで育てていた、というのが一番すごい。想像してくださいよ。毎年のように妊娠出産して12人の子供を育てながら、家事をやり、料理を作り、服を縫い、夜にはケーキも焼く。子供たちが大きくなっても、男の子に家事なんかやらせないみたいな時代ですから、どんどん負担が増える。子供が次々と学校などで問題を起こしても「やんちゃ」で片づけられ、薬物なんて当たり前、決定的なやらかしでさえなければ、という時代。
両親が子供を放置気味、というのは、発症の要因だったのかもしれないけど、そんなに産めばそうなるよ(;゚д゚)、と唖然としました。母親のキャパを明らかに超えているのだが、そんなこと本人は考えない。男兄弟たちが仲悪く、常に競争心を抱いていて、すきあらばマウントを取り合ったり、暴力で解決したり、みたいな超ストレスフルな状況であっても「あらあら、まあまあ」みたいに受け流すしかない。
父親には父親の問題もあるんだけど、とにかくミミの存在感はとても大きい。この二人、超人的に丈夫でバイタリティ旺盛な人たちだな……。フィクションだと、この両親に「毒親」という印象を多かれ少なかれ与えて、読者のカタルシスみたいなものを促すんだろうけど、この作品を読み終えるとそんな感情は浮かんでこない。なんかこう……いろいろ理想はあったけど、全部が全部うまくいかなかったってだけなんだな、と思った。子供が5人くらいだったら、「毒親」にはならなかったかもしれない。でもそれは、二人の理想ではなかったのかもね。
いろいろ書いていたらきりがないのでこの辺にしときますが、統合失調症について、というよりはギャルヴィン一家の物語なので、病気に関して知りたいという人には物足りなさがあるのかもしれない。やはりこれは、ファミリーヒストリー系の作品が好きな人におすすめします。
面白かった──という言い方は適切ではないかもしれませんが、なんだかグイグイと引き込まれ、ほぼ一気読みでした。集中力家出中の私としては大変珍しい。12人の子供全員と両親、そして治療に当たる医師や統合失調症の研究者たちというたくさんの人の視点をいったりきたりするのですが、元の構成がいいのか、それとも翻訳が素晴らしいのか(多分両方)、ほんとに読みやすい。淡々と書かれているのもいいのかも。
サブタイトルに「遺伝か、環境か」とついていますが、これは統合失調症の未だわからない点の一つらしいです。ただ現在では、統合失調症に関する遺伝子はわかっているらしい。しかし、それを持っていても発症するとは限らない。その遺伝子と環境要因が結びついて発症するのでは、と言われている。
つまり、同じ両親から生まれた12人のうち、6人が発症して、6人がそうではない家族、というのは、統合失調症を解明するために非常に重要な存在であった、というお話なのです。
12人のうち10人が男子で、そのうちの6人が発症している(「情報」の「末っ子」は「男の兄弟」の一番下のこと)。彼らの下の二人の女子たちは、私と同世代です。長男と末っ子はちょうど20歳違う。ギャルヴィン一家は、1960年代から現在(この本では2018年)まで、ずっと病気と闘ってきたのです。それは、アメリカの精神医学の歴史とも重なっている。
いやあ……壮絶です。作者が「すべて真実」と記しているのがまたびっくり。フィクションの部分はないそうなんですよ。関係者全員に話を聞いて、資料をすべてあたり、会話一つとして推測なしという……内容も執筆も壮絶。
1人1人の発病や闘病についての箇所もすごいんですけど、とにかく一家の母親・ミミが、12人の子供をワンオペで育てていた、というのが一番すごい。想像してくださいよ。毎年のように妊娠出産して12人の子供を育てながら、家事をやり、料理を作り、服を縫い、夜にはケーキも焼く。子供たちが大きくなっても、男の子に家事なんかやらせないみたいな時代ですから、どんどん負担が増える。子供が次々と学校などで問題を起こしても「やんちゃ」で片づけられ、薬物なんて当たり前、決定的なやらかしでさえなければ、という時代。
両親が子供を放置気味、というのは、発症の要因だったのかもしれないけど、そんなに産めばそうなるよ(;゚д゚)、と唖然としました。母親のキャパを明らかに超えているのだが、そんなこと本人は考えない。男兄弟たちが仲悪く、常に競争心を抱いていて、すきあらばマウントを取り合ったり、暴力で解決したり、みたいな超ストレスフルな状況であっても「あらあら、まあまあ」みたいに受け流すしかない。
父親には父親の問題もあるんだけど、とにかくミミの存在感はとても大きい。この二人、超人的に丈夫でバイタリティ旺盛な人たちだな……。フィクションだと、この両親に「毒親」という印象を多かれ少なかれ与えて、読者のカタルシスみたいなものを促すんだろうけど、この作品を読み終えるとそんな感情は浮かんでこない。なんかこう……いろいろ理想はあったけど、全部が全部うまくいかなかったってだけなんだな、と思った。子供が5人くらいだったら、「毒親」にはならなかったかもしれない。でもそれは、二人の理想ではなかったのかもね。
いろいろ書いていたらきりがないのでこの辺にしときますが、統合失調症について、というよりはギャルヴィン一家の物語なので、病気に関して知りたいという人には物足りなさがあるのかもしれない。やはりこれは、ファミリーヒストリー系の作品が好きな人におすすめします。
最終更新日 : 2022-10-29