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2023 · 03 · 26 (Sun) 13:15

◇『ミセス・ハリス、パリへ行く』ポール・ギャリコ

◇『ミセス・ハリス、パリへ行く』ポール・ギャリコ(角川文庫)
 1950年代のロンドン。通いの家政婦であるハリスおばさんは、得意先の衣装戸棚で美しいディオールのドレスを見つける。その瞬間、彼女は、この目玉が飛び出るような値段のドレスをパリへ行って仕立てることを決意した。("Mrs Harris Goes To Paris" by Paul Gallico, 1958, 1960)

 昨年に映画化されて、日本公開時に「行きたい!」と思ったんですが、いろいろあって行けず(´・ω・`)……。アカデミー賞でも衣装デザイン賞にノミネートされてましたよね。
 なぜ「行きたい!」と思ったかというと、大好きなポール・ギャリコの原作だから──というか、とてもなつかしい作品だったから。ギャリコの作品は高校生の頃からずっと読んできて、ハリスおばさんのシリーズも大好きだった。当時は講談社文庫で出ていて、「ポール・ガリコ」という表記だった。(というようなことは、巻末の訳者・亀山龍樹さんの解説に書いてあります。今回は新訳ではなく、亀山さん訳『ハリスおばさん、パリへ行く』を再販)
 シリーズは全部読んでいるはずですが、内容はパリ編以外ほとんど忘れている。パリ編だって、細かいところは全然憶えていない。だから、

「もう六十にそろそろ手のとどきそうなハリスおばさん」

 と書かれているのを見て、ひっくり返りそうになりました。ちょっと待て。高校生だった私の認識では、ハリスおばさんは「おばさん」というより「おばあさん」だったぞ!
 ……まあ、十代からすれば、アラカンの女性はそんなふうに見えていたのでありましょう。まさかハリスおばさんと同年代になって再読っていうか、再販されるとは思わなかったからなあ。
 私の話はこの辺にして、ハリスおばさんの話です。
 ロンドンでお掃除おばさんとして働くハリスおばさんは、ディオールのドレスを見た瞬間、まさに恋に落ちたかのように「ほしい!」と思っちゃうのです。そこから血のにじむような努力を重ねて、パリ行きを実現させる。しかし、ただお金があるからって「はい、どうぞ」と仕立ててくれるような時代ではない。だが、このお金はハリスおばさんの推しへの愛の結晶であり、一生懸命働き、自分の力で手にしたもの。その誇りにあふれた彼女は、堂々とパリのクリスチャン・ディオールの店を訪ね、真正面から「一番高いドレス、くださいな」と挑む。
 今読むと、彼女はまぎれもなく「おばさん」ではあるけれど、「おばあさん」ではなかった。ものすごくパワフルな人だった。年齢や職業、階層に囚われている話ではなかった(ちょっと作者の女性に対しての視線には偏りを感じたが、古い作品ですから……)。見習いたい。ていうか、月並みな言い方ですけど、読むと元気が出てくる。
 あ、でも、ラストはちょっとギャリコらしいというかなんというか……納得いかない人がいても不思議ではないのだけれど、私は元気になりました。人は、純粋でまっすぐな心に触れると、自分も浄化されたような気持ちになる、という話です。ラストは、おばさん自身が自分のそんな心が形となったドレスに救われる話なのだと思います。
 映画は3/29にDVDが出るようです。結局、予約しちゃったよー。
(★★★★)

最終更新日 : 2023-03-29

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