2009 · 10 · 23 (Fri) 09:17 ✎
△『プリンセス・ブライド』ウィリアム・ゴールドマン(ハヤカワ文庫FT)
作家のビリーは、子供の頃父親に読んでもらった大好きな本『プリンセス・ブライド』を、息子の誕生日にプレゼントする。だが、どうも息子は途中で挫折したらしい。初めて本を読んでみると、自分が知っていたものとはだいぶ違っていることに気づく。父親は彼のために面白く抜粋して読んでいたのだ。それをちゃんとした本にして出版しよう、とビリーは考える。("The Princess Bride" by William Goldman,1973)
作家のビリーは、子供の頃父親に読んでもらった大好きな本『プリンセス・ブライド』を、息子の誕生日にプレゼントする。だが、どうも息子は途中で挫折したらしい。初めて本を読んでみると、自分が知っていたものとはだいぶ違っていることに気づく。父親は彼のために面白く抜粋して読んでいたのだ。それをちゃんとした本にして出版しよう、とビリーは考える。("The Princess Bride" by William Goldman,1973)
考える、というか、「出版したのがこれ」というのがこの作品の前書きにあたります。あ、この前書きの部分、目次に乗ってない!(52ページもあるのに) 本文じゃない扱いになってるんだね。徹底してるなあ。
あらすじを書く時、果たして「プリンセス・ブライド」本文のあらすじにするべきか、それともこの作品の仕掛けである前書きにするべきか、迷い──ませんでした。だってこの作品はただの前書きだと思わせておいてそうじゃないメタフィクション。日本での翻訳出版は1986年。翌年、自らの脚本による映画『プリンセス・ブライド・ストーリー』も公開された作品の再読。
このブログを始めた時、かつて自分が読んだ本や映画の中から、一見ロマンスに見えないロマンスを探そう、と考えていました。いろいろ思い出した候補の中にこの『プリンセス・ブライド』もあったのです。映画も好きだった。映画よりも先に読んだんだけどね。ただ、古い本だし、当然手放していました。そしたらつい最近、家から一番近い古本屋で見つけたのですよ! しかも100円!(ちょっと悲しい)
で、読み返したのですがこれは──ロマンスもあるけど、メインは違う。メインは、赤字で出てくる作者本人の注釈とか言い訳とか茶々とか、そういうもの。これはあくまでもメタフィクション──つまり、前書きから物語はすでに始まっていて、『プリンセス・ブライド』本文は作中の作品なのです。
ていうか、これはあらすじどおりに本気にしてほしかったのか、そうじゃないのか。出版された当時の私も、これはメタフィクションだという認識でもちろん読んでいたけど──まあ、本を読み慣れている人なら、予備知識がなくてもそう思うはず。とはいえ、本気にしたとしても、『プリンセス・ブライド』本文にはそれほど影響はない、とも言えるけど。
前置きが52ページもないけど長くなってしまった……orz
ビリーというのはウィリアム・ゴールドマン本人のことで、日本では小説家としてより脚本家として有名な人だよね。『明日に向かって撃て!』とか『大統領の陰謀』とか『ミザリー』(おお、これも原作はメタフィクションの傑作ですね)とか。私は『マラソンマン』と『ホット・ロック』が特に好きです。シリアスもコメディもいける人。
前書きは虚実取り混ぜてあるけど、彼の父親がフローリンというヨーロッパの小国出身というのがまず嘘で、『プリンセス・ブライド』がその国出身のS・モーゲンスターンという作家の作品であるのも嘘。しかし、この前書きにかなりワクワクさせられるんだよね。作者自分でハードル上げてるよな、と思いながらも、それに同じように乗せられてしまう、という──本読みにはちょっとたまらない気持ちかも。
で、物語は始まります。昔昔のフローリン。世界一の美女である牛乳配達娘のキンポウゲ(映画では“バターカップ”という表記)。それにつかえる無口な下男ウエストリー。ある日、彼女の家に公爵夫妻がやってきて──
わたしだ。
と、いきなり作者が登場(モンスターエンジンじゃないですよ(^^;))。いや、実際はその公爵夫妻が来る前、彼らの説明の途中で出てくるんですが。そして、しばし「ここ何ページカットしたから」と語ってまた本文に戻る。
彼への恋心に気づき、告白をしたキンポウゲ。ウエストリーは彼女にふさわしい男になるため、アメリカへ旅立つ。しかし船は海賊に襲われ皆殺し──
またわたしだ。
いや、この言い方もまたもうちょっとあとに出てくるんですが、「わたしだ」「またわたしだ」と出てくる作者のタイミングと、カットした言い訳が妙に長かったりするのが、やっぱりおかしい。
そんなこんなで、キンポウゲはフローリンの親王(王子)からプロポーズされ、恋人を亡くした彼女はそれを承諾する。ところが婚礼の前に彼女は誘拐され、謎の黒装束の男に助けられ──というお約束な展開になっていく。冒険ロマンスのセオリーどおりではあるけれども、基本的にはお遊び全開なコメディです。ふざけている、とも言えますが、私は大好き。物語を語る人間自身のパワーがある。作者がとても楽しんで書いているのを感じるからなのかな。メタフィクションって、書くの大変らしいし……。
でも、映画だとけっこう普通のファンタジーなロマンスに見えたんだけど(変なシーンもあったけど)。だいたいキンポウゲがアホの子というのにショック。だって、映画だとロビン・ライトなんだよ。なんかこう……頭良さそうじゃん! それは今の印象だけ?
これもまた見たのはかなり昔ですから──映画がどれだけ原作に忠実(?)なのか、見直してみたくなってしまった……。
(★★★★☆)
あらすじを書く時、果たして「プリンセス・ブライド」本文のあらすじにするべきか、それともこの作品の仕掛けである前書きにするべきか、迷い──ませんでした。だってこの作品はただの前書きだと思わせておいてそうじゃないメタフィクション。日本での翻訳出版は1986年。翌年、自らの脚本による映画『プリンセス・ブライド・ストーリー』も公開された作品の再読。
このブログを始めた時、かつて自分が読んだ本や映画の中から、一見ロマンスに見えないロマンスを探そう、と考えていました。いろいろ思い出した候補の中にこの『プリンセス・ブライド』もあったのです。映画も好きだった。映画よりも先に読んだんだけどね。ただ、古い本だし、当然手放していました。そしたらつい最近、家から一番近い古本屋で見つけたのですよ! しかも100円!(ちょっと悲しい)
で、読み返したのですがこれは──ロマンスもあるけど、メインは違う。メインは、赤字で出てくる作者本人の注釈とか言い訳とか茶々とか、そういうもの。これはあくまでもメタフィクション──つまり、前書きから物語はすでに始まっていて、『プリンセス・ブライド』本文は作中の作品なのです。
ていうか、これはあらすじどおりに本気にしてほしかったのか、そうじゃないのか。出版された当時の私も、これはメタフィクションだという認識でもちろん読んでいたけど──まあ、本を読み慣れている人なら、予備知識がなくてもそう思うはず。とはいえ、本気にしたとしても、『プリンセス・ブライド』本文にはそれほど影響はない、とも言えるけど。
前置きが52ページもないけど長くなってしまった……orz
ビリーというのはウィリアム・ゴールドマン本人のことで、日本では小説家としてより脚本家として有名な人だよね。『明日に向かって撃て!』とか『大統領の陰謀』とか『ミザリー』(おお、これも原作はメタフィクションの傑作ですね)とか。私は『マラソンマン』と『ホット・ロック』が特に好きです。シリアスもコメディもいける人。
前書きは虚実取り混ぜてあるけど、彼の父親がフローリンというヨーロッパの小国出身というのがまず嘘で、『プリンセス・ブライド』がその国出身のS・モーゲンスターンという作家の作品であるのも嘘。しかし、この前書きにかなりワクワクさせられるんだよね。作者自分でハードル上げてるよな、と思いながらも、それに同じように乗せられてしまう、という──本読みにはちょっとたまらない気持ちかも。
で、物語は始まります。昔昔のフローリン。世界一の美女である牛乳配達娘のキンポウゲ(映画では“バターカップ”という表記)。それにつかえる無口な下男ウエストリー。ある日、彼女の家に公爵夫妻がやってきて──
わたしだ。
と、いきなり作者が登場(モンスターエンジンじゃないですよ(^^;))。いや、実際はその公爵夫妻が来る前、彼らの説明の途中で出てくるんですが。そして、しばし「ここ何ページカットしたから」と語ってまた本文に戻る。
彼への恋心に気づき、告白をしたキンポウゲ。ウエストリーは彼女にふさわしい男になるため、アメリカへ旅立つ。しかし船は海賊に襲われ皆殺し──
またわたしだ。
いや、この言い方もまたもうちょっとあとに出てくるんですが、「わたしだ」「またわたしだ」と出てくる作者のタイミングと、カットした言い訳が妙に長かったりするのが、やっぱりおかしい。
そんなこんなで、キンポウゲはフローリンの親王(王子)からプロポーズされ、恋人を亡くした彼女はそれを承諾する。ところが婚礼の前に彼女は誘拐され、謎の黒装束の男に助けられ──というお約束な展開になっていく。冒険ロマンスのセオリーどおりではあるけれども、基本的にはお遊び全開なコメディです。ふざけている、とも言えますが、私は大好き。物語を語る人間自身のパワーがある。作者がとても楽しんで書いているのを感じるからなのかな。メタフィクションって、書くの大変らしいし……。
でも、映画だとけっこう普通のファンタジーなロマンスに見えたんだけど(変なシーンもあったけど)。だいたいキンポウゲがアホの子というのにショック。だって、映画だとロビン・ライトなんだよ。なんかこう……頭良さそうじゃん! それは今の印象だけ?
これもまた見たのはかなり昔ですから──映画がどれだけ原作に忠実(?)なのか、見直してみたくなってしまった……。
(★★★★☆)
最終更新日 : -0001-11-30