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2009 · 10 · 24 (Sat) 19:42

▲『運命を告げる恋人』J・R・ウォード

▲『運命を告げる恋人』J・R・ウォード(二見文庫)
 ヴァンパイアの貴族の娘ベラが殲滅者(レッサー)にさらわれて6週間。〈黒き剣(ブラック・ダガー)兄弟団〉のザディストは彼女を探し続けていた。すでに葬儀も執り行われ、家族ですらあきらめているというのに。一方、ベラをさらったレッサーは、自分の本来の役目すら見失うほど彼女に異様な執着を抱いていた。("Lover Awakened" by J.R.Ward,2006)
・〈ブラック・ダガー・ブラザーフッド〉シリーズ第3作

 おおおお、ザディスト──何とけなげで切ない、乙女な奴(´;ω;`)……。
 シリーズ第1作『黒き戦士の恋人』に出てきた時から彼が主役になるのを楽しみにしてきたんだけど、まさかこんなキャラだとは。醜悪な傷痕と人をはねつけるような空気で皆を恐れさせる残虐で冷酷な男──と思っていたらば、それは実は、百年の血隷(ぶっちゃけ性奴隷です)生活のトラウマと穢れた自分への嫌悪感、羞恥心、劣等感を隠す仮面だった。それらをすべて取り去った彼は、誰よりも純真で繊細で優しく、そしてけなげながんばり屋さん。
 もおお、ラスト近くは滂沱の涙でした。「自分は彼女にふさわしくない」と苦悩するヒーローは大好物ですから! しかも、双子だからか同じようにヒロインに惹かれているフュアリーに譲ろうとすらする。「お前の方がふさわしい」とか言って! そういう乙女な思考が泣かせる。ヒロインへの告白の仕方も、だいたいわかってたけど、わかっていても泣けるよなあ。
 けど一番泣けたのは、告白する寸前のこのセリフ。

「つまりその、読み書きができるようになって、もうちっと自分で自分の面倒も見られるようになって、性根の腐った下司野郎だって言われなくなるようにがんばってれば、その……(中略)その、友だちになれねえかっていうか」

 何このささやかなお願い……( ;Д;)。ささやかすぎて涙止まらず……。読み書きどころか何も誰からも教わらずに百年囚われて、助かったあとも自分をおとしめることしか考えてこなかったヒーローが、よくぞここまで……(T_T)。
 ヒーローに大大大満足(歌声が美しいというのもツボだ~)でしたが、それだけじゃなく盛りだくさん。彼を探し続けて助けたフュアリーの苦悩と失った足のこと(荒みようが心配)。第2作『永遠なる時の恋人』に出てきた遷移前ヴァンパイアであるジョンの謎も次第に明らかになってくるし(すごく気になるんだよねえ)、主要人物だと思っていた人はいなくなるし、クセのある新キャラも出てくるし、レッサーの内部もいろいろうごめいているし──。
 普通だったらもっととっちらかるだろう、っていうくらいたくさんのことが起こるのに、テンポ良く緊張感の途切れない展開で綴っていくのです。盛りだくさんすぎて、これ以降が心配になるほどだけど、この構成力はやっぱり最近のロマンス作家の中でもピカイチ。ラノベみたいじゃないもん(´∀`;)。
 この作品だけで完結していない(前にも次にも続いている)、という大きな難点があるのですが、ザディストがあまりにもよかったし、気がついたらシリーズ中一番幸せで微笑ましいカップルになってたというのにものすごく萌えたので、満点つけちゃおう。
(★★★★★)

最終更新日 : -0001-11-30

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