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2010 · 07 · 14 (Wed) 07:34

▲『林檎の庭の秘密』サラ・アディソン・アレン

▲『林檎の庭の秘密』サラ・アディソン・アレン(ハヤカワイソラ文庫)
 アメリカ南部の町、バスコム。ここでは、古くからの様々な言い伝えが、まことしやかに信じられていた。ウェイヴァリー家にまつわる話もその一つ。クレアは亡くなった祖母と同じように、林檎の木がある美しい庭で収穫された植物から、不思議な効能を引き出す。そんな家の呪縛から逃れたかったクレアの妹が、10年ぶりに幼い娘を連れて戻ってきた。("Garden Spells" by Sarah Addison Allen,2007)

 パラノーマルだと思って読んだものですが、全然違っていました。
 裏表紙のあらすじや訳者のあとがきにあったのは「マジック・リアリズム」という言葉。よく聞く言葉だったけど、ちゃんと調べたことがなかった。ファンタジーとどう違うの? って思ってたけど、あくまで表現技法のことで、ジャンルではない、ということかな?
 そう考えると、この小説のジャンルは読む人によって変わるのではないか、と思う。私は一応パラノーマルロマンスにしときましたが、梨木香歩の『西の魔女が死んだ』みたいなファンタジーとも言える。モンゴメリやオルコットなどの家庭小説のようななつかしさもあるけれど、ちゃんと大人向け。ゲイカップルやDVの問題も含まれているので、アメリカ南部を舞台にした現代文学としても読めます。
 私にとっては、主人公クレアが作る料理がとてもおいしそうってだけで満足(手作りパンやジャムを売ったり、出張料理人をしているのです)。効能のある植物は、すべて自分の美しい庭にあるというのもいい。今ならオーガニックやマクロビオティックと言われてもてはやされるだろうけど、基本的には古くからの民間伝承で、つまりは魔女っぽい。そして、少し意地悪な林檎の木と、その実の秘密。素朴で土着な運命論に彩られた物語です。
 話を回すのは性的緊張感ではなく、静かに育つ恋愛感情や、満ち足りた日常を継続させるための食欲。みんながみんな敏感ではなく、現実的な鈍感さと素っ気なさが優しく心地いい。
 クレアのような女性像は、現代社会におけるある理想ではないか、と思いました。一人暮らしで、特有な才能を日々の糧のために使い、健康的で平穏な生活を送る──ロハスなひきこもり?(^^;)
 外からの大きな刺激がない限り、孤独ではあるが満足しているはずだし、本人もそれが一番いい、ずっと続いて欲しいと思ってる。私も、実はあこがれる。何も変わらないまま、死ぬまでこんなふうに快適だといいなって、やっぱり思う。
 と言っても、人間は変化あるからこそ人間なんだそうですよ。捨てた故郷へ戻ってきた妹と姪、隣に越してきた美術講師タイラーとの恋が、何も起こらないでほしかったクレアを揺さぶっていく。
 こういう変わり方もまた、理想なんだろうと感じます。そこら辺はロマンス的だなあ、と思いつつ、でも……変わる前の理想を維持するのは不可能かもしれないと考えると、変わり方だけならば、理想に近くすることもできるかも、と思えてくるから不思議だ。
(★★★★☆)

最終更新日 : -0001-11-30

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