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2010 · 08 · 28 (Sat) 09:16

◆『モミの木の下で』デビー・マッコーマー

◆『モミの木の下で』デビー・マッコーマー(MIRA文庫)
 クリスマス休暇を早く父と一緒に過ごしたくて、苦手な飛行機にも乗ったのに、大雪のためシェリーは別の空港で足止めを食らってしまう。レンタカーの最後の一台を取り合ったあげく、シェアすることになったのは、ビジネスマンのスレードだった。("Let It Snow" by Debbie Macomber,1986)
・アンソロジー『聖なる夜にあなたと』

 同書収録のリンダ・ハワード『クリスマスの青い鳥』の時にも書きましたが、短編作品は特有の盛り上げや落としどころというのが大切です。
 まあ、どう書いてもいいんですけど、読者はわがままですから、読後感が長編並であることさえ望む。そうなると、代表的な構成といえば、意外なオチを最後にもってくるか、クライマックスのワンシーンのために全力で盛り上げるか──というところでしょうか。「落としどころ」には“オチ”と同時に、長編のようにたくさん書けないですから、“何を省くかというカット技術”の二重の意味があります。
 長編と短編は基本的に書き方が違う、と私は思っています。でも、実はこれ、向き不向きがある。両方書ける人もいるし、どちらかしかうまくない人もいます。それに、いい悪いはありません。両方書けないといけないわけでもありません。ハーレは、短編向きの作家さんって少ないのかなあ、と思うだけ(^^;)。
 余談が長くなりましたが、この作品はクライマックスに向けて全力で盛り上げるタイプでした。ヒロインは、雪で足止めを食ったヒーローを自分の実家に泊めてあげる。クリスマス前のほんのわずかな間の出来事。ヒーローには婚約者がいるので、二人はちょっとキスをしちゃう程度なのですが、それで彼の人生観は変わり、ヒロインの元へ戻ってくる。
 その人生観が変わった瞬間(キスじゃないのがいいんだよね)を短いながらも鮮やかに描写していて、ヒーロー視点がなくてもその時の彼の感動やヒロインへの愛が見えてくる。書けない、あるいは書かないことを利用してこその短編。
 さりげないお話ながら、上質な佳品であります。
(★★★★)

最終更新日 : -0001-11-30

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