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2010 · 11 · 20 (Sat) 07:15

●『愛を刻んでほしい』ロレイン・ヒース

●『愛を刻んでほしい』ロレイン・ヒース(二見文庫)
 1866年、テキサス。南北戦争で夫と弟たちを失ったメグは、町の人々の憎しみを一身に受けている男クレイ・ホランドに、さらに罰を与えようとしていた。彼は兵役につきながら戦闘を拒んだ「臆病者」だ。メグは夫の親友だった彼に、戦没者の記念像を彫らせて、己の罪と向き合わせようとする。("Always To Remember" by Lorraine Heath,1996)

 ロマンスなんですが──ヒロインはこの際どうでもいいかな、という気分になるほど、ヒーローがいい。というより、彼と彼を信じる友人たち、そして南北戦争(いや、戦争すべて)で亡くなった人たちとその家族の気持ちが痛く切ない物語です。
 ヒロインは、はっきり言って前半、かなりやな女です。後半でもずいぶんな仕打ちをヒーローにして、後悔をする。それは彼女が、狭い世界しか知らず、その価値観にすがって生きるしか選択肢がない、と思いこんでいる人間だからです。自分の信念を疑うことを恐れ、真実を知ろうというささいな好奇心すら、最初のうちは枯れ果てている。
 それはもちろん、戦争のせいでもある。悲しみや憎しみが人を変えてしまうと、希望や喜びが再び訪れることすら信じなくなる。戦場の様子を知らない残された人々が、「名誉の戦死」という大義名分にすがらなければ死んでいった者が浮かばれない、と思っても仕方ない。戦闘を拒否し、のうのうと生き残った者(と思われているヒーロー)を認めたら、自分の夫や息子の死は汚されてしまう。
 ヒロインは確かにヒロインであるんだけど、町にはびこる偏った憎しみの象徴のような人間です。彼女が変わることで町も少しだけ変わるんだけど、その道のりはつまりヒーローの受難物語。幼い頃から彼女のことが好きだった彼は、憎もうとしても憎めない。家族のいる町から離れたくないという思い、孤独に押しつぶされそうな夜、軍の拷問や処刑の記憶、仲間たちの忠実な友情と死──。苦難の連続です。ちょっと苦悩の度合いが今までの最高レベルかも!(愛だけに悩んでいるわけじゃないけど)
 ただ彼には彫刻の才能があり、それがものすごく支えになっている。これがなかったら、ここまでがんばることはできなかったと思う(あ、あと双子の弟たちね! この子たちはとてもいい子だった(T_T))。憎しみに燃えるヒロインは、彼への罰──戦没者記念像が、芸術と愛と、そして友との約束という無上の喜びになるとはまったくわかっていない。
 ヒロインの夫は、親友であるヒーローのことをとても深く理解していたんだけれども、妻にはそれを言わないで出征してしまう(祖母には言っていたのに)。それもおそらく、彼女にはわかってもらえない、と知っていたから。町のほとんどの人がそういう鈍感さにすがらなければ、余計に悲しむだけだったんだよね。
 涙で本当に文字が読めないほど泣いたんですが、一番泣けたのもロマンスの部分ではなく、最後に石に刻まれた二つの名前。この名前に添えられた言葉こそ、作者が一番言いたかったことなのかもしれない。やっぱりこれは、ヒーローとその友人たちの物語だったんだね。
(★★★★☆)

最終更新日 : -0001-11-30

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